時はすぐに過ぎ去ります。昼はすぐに夜になります。青春は一瞬です。すぐに終わります。人の寿命は短く、あっという間に老死が訪れます。いま行動しなければ、寿命が尽きるまでになすべきことができません。なすべきこととは何でしょうか。世間的な利得を捨て、寂静を目指すようにとブッダは説きます。世間的な利得とは物質的な繁栄のことです。寂静とは精神的な繁栄であり、言葉のない寂静な世界である涅槃のことです。煩悩のない涅槃こそが仏教の目指すところです。
ブッダの説く時間論は明快です。過ぎ去った過去にくよくよせずに、まだ来ていない未来のことをあれこれと思い巡らすことはやめよと言います。いまこの瞬間になすべきことをする、つまり涅槃に至る修行をするべきであると言います。ブッダにとって、怠け者とは修行を怠る人のことです。精神的な繁栄である寂静を目指して、いま修行することの大切さをブッダはさまざまに説いています。
現代人にとって日夜修行に励むことは現実的ではありません。朝から晩まで瞑想していると日常生活が成り立たなくなります。日常生活を維持しながらできる修行もたくさんあります。それはたとえば少欲知足の生活です。欲を少なくして、いま足りていることを知るのです。足りないものは物質ではありません。心が足りないと感じるだけです。物が足りないと考えると心は欲望へと向かいます。もうこれで十分であると、考えると心は満たされます。これが知足です。
知足は涅槃への道です。心が平安であり、苦しみのない状態が涅槃です。一日中瞑想していなくても、欲望から離れようとする心がけだけで苦しみが減り、少し楽になります。欲望は苦しみの原因であると意識するだけで、心は欲望から離れようとします。心の小さな気づきが大きな涅槃への道となります。少しずつ気づいて、少しずつ前進する。気がつけば大きな前進になっています。日常のできることから少しずつ出発しようと、ブッダは語っています。