みんなが考えているよりずっとたくさんの「幸福」が
世の中にはあるのに、
たいていの人はそれを見つけないのです

メーテルリンク(『青い鳥』 新潮文庫 163頁)

 モーリス・メーテルリンク(1862-1949)は、ベルギーのゲント市で生まれた劇作家、随筆家、詩人です。実家は由緒ある名家で、初めは法律を学びましたが、やがて文学に転じます。当初は象徴主義の劇作家として活動をしていましたが、なかでも目に見えないものに真実を求める独自の象徴主義演劇を確立していきます。代表作は、戯曲『青い鳥』の他、『マレーヌ姫』、『モンナ・ヴァンナ』、随筆『貧者の宝』、詩集『温室』など多数あります。そして1911年にノーベル文学賞を受賞しています。


 メーテルリンクは人間の意識下の世界へ潜み入り、霊魂の神秘をさぐる劇作家とも評価されています。戯曲『青い鳥』もあらすじとしては幻想的、神秘的な夢物語です。貧しい木こりの家に生まれたチルチルとミチルの兄妹は、近所のお金持ちの家のことをうらやましく思っていました。ある日妖女(ようじょ)ベリリウンヌから、彼女の娘の病気を治すために「青い鳥」を探すように頼まれ、「青い鳥」を探す旅にでかけます。二人は途中で何度も「青い鳥」を見つけますが、つかまえることができなかったり、つかまえても籠にいれると色が変わってしまったり、死んでしまったりします。苦労を重ねながらも、「青い鳥」を手に入れることはできず、落胆したまま旅を終え、夢からさめます。しかし目をさました二人の目の前の鳥籠の中にいる鳥が青い鳥に変わっているのを発見します。チルチルとミチルの兄妹が飼っていた鳥がほんとうは「青い鳥」だったのです。


 標題のことばは「本当の幸せとは、遠いところあるのではなく、何気なく過ごしている日常生活の中にこそある」という意味です。例えば、おうちの幸福、健康である幸福、清い空気の幸福、両親を愛する幸福、青空の幸福、森の幸福、昼間の幸福、夕日の幸福、雨の日の幸福、無邪気な考えの幸福、正義である喜び、善良である喜び、美しいものをみる喜び、母の愛の喜び、子どもを愛する喜び、いい友達を持つ喜び、平和な世界で暮らす喜びなどが具体的に示されています。それらはすべて、日常生活では当たり前のように感じてしまっていて、普段は気にしないことが多いのではないでしょうか。しかし無くしてしまうと、その無くしたものの大きさに気づきます。


 また周囲を見渡すと、世界中で起きている戦争や紛争、様々な自然災害をはじめとして、日常生活をおびやかされている人たちがたくさんいます。身近な虐待や、人々の多様性を否定する言動にも心が痛む毎日です。当たり前の生活、何気ない幸福・喜びを感じることが難しい状況にある人がいることを忘れてはいけないと思います。そのように考えると、メーテルリンクのメッセージは子どもだけでなく、大人や社会全体に対するメッセージとしても受けとめ、私たちも行動する必要があるかと思います。


 

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