地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけることができるでしょう。

レイチェル・カーソン(『センス・オブ・ワンダー』新潮社 50頁)

 レイチェル・カーソン(1907 - 1964)は、1962年に出版された『沈黙の春』で、殺虫剤や農薬などの化学物質の危険性を訴え環境保護運動のきっかけを作った生物学者です。

  彼女はペンシルバニア州に生まれ、両親と、年齢の離れた兄・姉の5人家族で育ちました。幼少期は家の近くの大自然に触れて育ちます。また作文で賞を取るなど頭脳明晰な少女でした。家庭が裕福ではなかったこと、当時女性が進学することは非常に困難な時代であったことから、学業を継続するために大変苦労し続けた人としても知られています。特にこの女性差別問題は、『沈黙の春』で環境問題を指摘した際に、女性が書く文章は科学的ではないとか、女性なのに自然や生物が好きなのは変わり者だ、といった的外れな批判を呼ぶことにつながりました。しかし、『沈黙の春』はアメリカ社会を変えた重要な一冊として今なお高く評価されています。

 冒頭の言葉は彼女の死後に出版された『センス・オブ・ワンダー』という本にある文章です。「センス・オブ・ワンダー」とは「神秘さや不思議さに目を見張る感性」という意味です。この本は、幼い子ども(彼女の姪の息子)と自然を散策し、森の木々や海の生物、星空や雲の流れを見つめる中で、自然の美しさや不思議さを驚きと共に発見する喜びを綴っています。


  私たちは今、携帯電話の画面からさまざまな情報を得ることができる、とても便利な社会に生きています。しかしその一方で、いかに無駄なく効率的に物事を進めるか、いかに無駄なく「正しい」とされる答えに辿り着くのか、といったことが追求され、立ち止まることもなく、毎日、毎日、忙しく暮らしているともいえます。そうした状況の中で、身も心も疲れ果ててしまうこともあるでしょう。しかし、そもそも人生とは、効率を求め忙しさと疲労で満ちたものであるべきなのでしょうか?

 私たちは、社会の一員であると同時に、自然の一部です。私たちの周りにも、木々の緑があったり、窓の外には雨に濡れた蜘蛛の巣があったり、海の青さ、空の輝きや雨の日の匂いなど自然の美しさに溢れています。私たち自身もそうした自然の中で、美しい輝きを持った存在としてそこに立っているのです。そして自然の営みは、私たちの想像以上の不思議さや緻密さ、美しさを放っています。


 そのことに気づき、「センス・オブ・ワンダー」を磨いていくことは、きっと人生の戸惑いや困難を乗り越え、生き生きとした人生を送るヒントをもたらしてくれるのだと思います。

 


 

 


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