特集
答えは一つじゃない。多角的に問い直す力
子どもに寄りそう温かさと、プロとしての専門性をはぐくむ学び

大江健三郎を中心とする戦後の日本文学や芸術表現と、社会との関わりに注目して探究し続けています。小さな「ことば」への気づきから深い意味を解き明かし、社会の常識を疑う視点を磨き抜きます。文学を通して自己や世界と向きあう、知的な探究の魅力あふれる日々について伺いました。

A.大江健三郎を中心とする戦後の日本文学に関する研究に取り組んでいます。小説作品が発表された当時の社会状況との関わりに注目し、エッセイを含めた大江の「ことば」を通して現代の日本社会の思想的状況を理解することに役立てています。さらに最近は演劇や映画などの身体表現にも関心の幅を広げています。各種芸術の受け手へのアプローチを捉え、文学の問題と掛けあわせることで新たな視野を開きたいと思っています。
A.文学研究においては、一つひとつの小さなことばが発する、大きな意味への気づきがとても重要です。案外そうした意味は注意深く目を凝らさなければ見落としてしまいますが、初めは重要だと思っていなかった作品内の一言から辞書的な意味以外の意味を読み取ることができ、それが新たな気づきへと連鎖的に広がっていく瞬間に深いおもしろさを感じます。
A.論文執筆の際、まずは対象となる小説を決めることから始めますが、その段階では考察の方向性もまだ完全にはわかっていません。しかし、対象の小説を読み込み、同一作家の他作品との比較や発表当時の社会状況などを調べていくうちに、次第にいくつかの論点が見えてきます。それらの点と点が綺麗に結びついた瞬間、新たな視野が開けるような感覚を覚え、非常に楽しく大きな充実感を得ることができます。その感動や手応えを知っているからこそ、どれだけ苦しくても何度でも一から研究に向きあい挑戦を続けています。
A.自らの「思い込み」に気づけた瞬間に学生は大きく成長します。小説を読む中であまりにも「当然」すぎて、読み飛ばしてしまう箇所に対しても「果たしてそれは当然なのか、なぜ自分は当然だと思ってしまったのか」という問いをもつことから独自の読解が始まります。学生と対話する際は、自らその疑問にたどり着いてもらえるよう、さまざまなアプローチで気づきを促していきます。
A.私は小説創作の授業も担当していますが、作品を他者に読まれる経験も学生を大きく成長させます。人はどうしても他者が自分の頭の中を共有しているわけではないことに鈍感になり、自己満足に陥りがちです。だからこそ、批判を含む他者からの反応を受け取り、自分の思考がどう伝わっているかを客観視することが大切です。そこから伝わる表現への模索が始まり、中には劇的な成長を遂げる学生もいます。
A.やはり読解力です。文学とはリテラシー(読み書き能力)の向上に真正面から取り組む学問であり、その本質的な魅力は優れた読解力が養われる点にあります。特に「ことばの裏」を読む力が身につくと、社会の常識がどのように作られているのかに考えが及び、常識を疑う視点をもてるようになります。人間社会やインターネット、SNSの世界もことばで成り立っているからこそ、自分の発したことばが相手にどう受け取られるかを想像する力は、将来においても非常に役立ちます。そうした能力を磨く場こそが「文学」という学問です。
A.文学科では、目標に向かって取り組むことで中学校・高等学校の国語教員免許や図書館司書の資格を取得できます。それだけでなく、社会の根本的な問題である「ことば」と向きあう力を養える点において、この学びは職種を問わず、あらゆる可能性や将来の選択肢へと開かれています。
A.研究テーマを選んだきっかけは、19歳の頃に大江健三郎の『死者の奢り・飼育』を読んだことです。友人から別の作品をすすめられて書店へ行った際に手に取ったのですが、それまで抱いていたイメージとは大きく異なる物語が展開されており、強い衝撃を受けました。そのギャップから一気に大江作品の魅力へと引き込まれ、結果として私の人生を大きく変える転機となりました。
A.これまで未確認だった資料を発見した瞬間は、高揚します。大江健三郎はごく最近の作家であるため、関連資料の整理作業はまだ途上にあります。古い新聞や雑誌から広く知られていない文章を見つけた際には「自分しか知らない情報だ」と非常にうれしくなります。私にとって研究とオタクは紙一重だと実感しています。
A.中学生の頃から大学時代にかけてバンド活動に夢中で、ベースを担当しました。特に高校生の頃はオリジナル曲を作って、ライブハウスで何度も演奏しました。そのときのメンバーとは、私が京都を離れていたこともあって10年近く会っていませんでしたが、最近になって交流が復活したので、時間があれば活動を再開したいですね。
A.他には映画や舞台鑑賞にも熱中しました。昔の日本映画や、ロシア(旧ソ連)の映画などを好んで観ました。映画館通いは、今でも続いています。「暗黒舞踏」と呼ばれる日本独自のダンスを観ることも好きで、京都を中心に小劇場も含めていろいろな劇場を訪れました。
A.休日は、映画館によく足を運んでいます。京都には素敵なミニシアターがたくさんあり、そこで隠れた良質な映画を発見するのが大きな楽しみです。また高校生の頃から大好きなLUNA SEAのライブに出かけたり、自転車で鴨川沿いを走ったりして気分転換を図っています。せせらぎや景色に包まれながら楽しむ、桜が咲き誇る春の鴨川の眺めは最高です。
A.大切にしているのは「好奇心を大事にする」ということです。日常の観察でピンと来れば即行動し、家でジッと過ごすことはありません。全ての行動や経験は、文学研究につながると信じています。多様な物事を吸収しながら、多角的な解釈を深めたいと考えています。
もし今、自分が学生ならオリジナリティを徹底的に突き詰めたいと考えます。教員として学生と向きあう中で、素晴らしい独自の感性をもちながら悩んでいる姿を目にすることがあります。私自身も同様のタイプだったからこそ、当事者にとってそれが簡単ではないことも痛感しています。だからこそ可能な限り寄りそい、支え導ける存在でありたいと思います。そして学生時代をやり直せるなら、もっといろいろな本を読みたいと考えています。


北山 敏秀 講師
文学部 文学科
【専門分野】
日本近現代文学
【研究領域・テーマ】
第二次世界大戦後の日本文学/大江健三郎/同時代言説
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