泉鏡花の独自の文体や構造を細部から分析し、鏡花文学の魅力を研究しています。表現者としての原体験を基に、先入観を疑い本質を見抜く力は全ての仕事に生きると語ります。大学生活では挑戦を恐れず、共感を超えた豊かさに出あうことの大切さについて、語っていただきました。​

先生のA面

ストーリーを超えて心に刺さる、鏡花文学の美しさ

Q.いま取り組んでいる研究はどんな内容ですか? ​

A.高校生のとき「ジャケ買い」した泉鏡花の短編集が、私の原点です。ストーリーは理解できないのに、断片的な場面の美しさが強烈に心に刺さりました。「なぜ筋が追えないのに、こんなに惹かれるんだろう?」という疑問が私の出発点です。鏡花は論理より、独特の文体や感覚的なイメージで世界を作る作家です。

Q.泉鏡花の独創的な世界観を掘り下げて行くんですね

A.特に関心があるのは、鏡花作品に繰り返し描かれる「救い」の要素です。追い詰められた者が現実を超えた何かに出あう瞬間、そこに鏡花文学の核心があります。「なぜ」という理由ではなく、それが「どのように書かれているか」を丁寧に分析し、鏡花文学にないことばの力を探るのが私の研究です。

時代を超えた「解釈」が作品に真の姿を授ける

Q.「この分野はおもしろい!」と感じるのはどんな瞬間ですか? ​

A.私が「おもしろい!」と思う瞬間は二つあります。一つは作品を深く読み込むときです。たった一つの単語に新たな解釈を見つけた瞬間、作品全体の見え方がガラリと変わる知的な興奮があります。もう一つは学生との対話です。学生たちの素朴な疑問が謎を解く鍵になり、一緒に新しい扉を開けたときに格別の喜びを感じるんです。

Q.読む側の解釈ひとつで読後感が毎回変わりそうですね

A.文学は書かれた瞬間に完成するものではありません。時代を超えて読者が「解釈」することで、はじめて作品は真の姿を現します。読者を取り込んで変化する、文字に隠された文学の力。その大いなる力を学生たちと一緒に発見し、更新し続けることこそが、この仕事の何よりの醍醐味だと思っています。

共感を超えた先にこそ本当の文学の豊かさがある

Q.学ぶ中で、学生が「成長する(化ける)」のは、どんなときですか? ​

A.学生の成長を感じるのは、作品への向きあい方が変わる瞬間です。最初は「共感できるか」という主観で語っていた学生が、研究手法を学ぶことで、語りの構造や時代の文脈、ことばの使われ方に注目できるようになります。「好き嫌い」ではなく「どのように書かれているか」を問うような転換が起きたとき、大きな成長を実感します。

Q.共感や好き嫌いという感情以外の測り方があるのですね

A.「共感できるか」という基準は、いまの若者にとって強力です。しかし文学には、共感の枠を超えた先にこそ本当の豊かさがあります。自分とは違う価値観や、割り切れない感情に出あい、その豊かさに気づいた学生の目がきらりと輝く瞬間こそが、教員として最も嬉しい瞬間の一つです。

文学を学ぶことは人間と社会の仕組みを読み解くこと

Q.この分野を学ぶと、どのような力が身につき、どのような職業・進路につながると考えますか?

A.「資料を調べる力」と「物事の構造を読み解く力」が身につきます。時代の資料を広く調べ、背景を掘り起こす。そして語りの仕組みやことばの選択を緻密に分析する。この地道な訓練こそが、大量の情報から本質を見抜き、複雑な事象を整理して伝える力を育ててくれるはずです。

Q.その二つの力を最も発揮できる進路はどんな職種ですか? ​

A.ここで培った力は、あらゆる場面で生きます。企画、広報、公務員、マスコミなど「読む・調べる・伝える」仕事とは抜群の相性ですが、本質的には人と関わる全ての仕事に通じる基礎力です。どう読み取り、どう伝えるかを考え抜いた経験は、どんな進路でも必ず力になるんじゃないでしょうか。

先生のB面

なぜ鏡花なのか。私が表現の仕組みに魅了された理由

Q.先生の研究テーマを選ばれた理由や、研究の少しマニアックなおもしろさを教えてください

A.泉鏡花は日本の近代文学のなかでも、ほかに似た人がいないほど独自の文体を持っています。私が鏡花を選んだのも、初めて読んだときの「よくわからないのに忘れられない」という強烈な感覚が残っていたからです。研究のマニアックなおもしろさは、漢字やルビ、句読点といった細部にこだわる点にあります。些細な違いで解釈ががらりと変わる、そんなスリリングな発見の連続が鏡花研究の尽きない魅力です。

Q.多くの文豪の中でも唯一無二の小説家なのですね

A. 鏡花の文章は、ことばの「意味」だけで読もうとすると本質がすり抜けてしまいます。音読したときのリズムや、印刷された文字の視覚的な美しさなど、意味以外の要素が小説の重要な一部になっているのです。だから声に出して読むと、黙読とは全く違う鮮烈な印象に出あえます。

Q. 先生の学生時代はどんなことに熱中されていましたか?

A.学生時代は文学を読むだけでなく「表現する」ことにも熱中し、演劇や能楽、創作活動に深く関わってきました。どうすれば自分の中のイメージをことばや身体で他者に届けられるのか。表現者の立場で模索し続けた原体験が、私の研究の出発点です。芸術が生み出され、受け手に届くときの見えない仕組みをことばで解き明かしたい。その強い衝動こそが、今も研究の道を突き動かす原動力になっています。

動画配信と気ままな旅。私の日常を支える二つの楽しみ

Q.普段の趣味、ハマっているものなど、先生を元気づけるものを教えてください

A. 私の気分転換は、YouTubeで動画やVtuberの配信を見ることです。研究者は本ばかり読んでいるイメージがあるかもしれませんが、画面の前でひとり笑う時間も大切にしています。もう一つの楽しみは予定を決めない一人旅です。海を眺めたり、ふらっと食べ歩きをしたり。そんなシンプルな時間が気持ちをリセットしてくれます。

正解を急がない。先入観を疑うことから始まる知的探究

Q.座右の銘は何ですか?また、いま学生だったら、どんなことに注力して学んでいきたいと考えますか?

A.大切にしているのは「自分の先入観を一度疑う」ことです。「こういう意味だろう」と決めてかかると、物事の本当のおもしろさを見逃してしまいます。これは研究に限らず、生きる上での基本です。大学時代は何でも「やってみたい」を試せる時間。先入観を捨てて、おもしろい表現や企画にどんどん挑戦してほしいです。

PROFILEプロフィール

  • 安藤 香苗 講師

    文学部 文学科

    【専門分野】
    国文学(近代文学)

    【研究領域・テーマ】
    明治期の文学/泉鏡花/文体論

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