「恋や友とは何か」「幸福とは何か」。2400年前のソクラテスやプラトンをはじめ、古代ギリシャ哲学が提示する問いは、今を生きる私たちの悩みに深く寄りそいます。原典のことばに直接ふれ、時代を超えて生きる多角的な思考力と観察力の養い方を伺いました。

先生のA面

人間関係の悩みに寄りそう古代ギリシャ哲学の不変の力

Q.いま取り組んでいる研究はどんな内容ですか?

A.おもに研究しているのは古代ギリシャ哲学です。ソクラテスやプラトン、アリストテレスといった2400年前の人々の「恋や友とは何か」「不正をして幸福になれるか」という問いにふれると、今も昔も人間は変わらないと気づかされます。幸福をめざし、人間関係に悩む「人間の条件」が不変であるからこそ、現代の私たちが直面する問題を考える大きな手がかりになります。

現代の承認欲求やSNSの悩みをギリシャ哲学で解く

Q.「この分野はおもしろい! 」と感じるのはどんな瞬間ですか?

A.現代とのつながりが見える瞬間です。たとえばプラトンの『国家』にある「透明人間になれる指輪を得たらだれもが不正を行うか」という問いは、現代の「SNSの匿名性」と重なります。「だれかわからないからこそ誹謗中傷が飛び交うのではないか」古代の問いは今も生きています。

Q.まさに現代の社会問題とつながるテーマですね

A.エピクテトスは物事を「意のままになるか、ならないか」に分類し、体調や評判、地位などは自分の「意のままにならない」と説きました。「承認欲求」に悩む現代人にも当てはまる見方です。古代ギリシャの哲学をひも解くと私たちが直面する課題への発見があり、そのおもしろさを授業を通して学生たちと共有しています。

原典を読み込み発表する経験が思考のレベルを高める

Q.学ぶ中で、学生が「成長する(化ける)」のは、どんなときですか?

A.学生が成長するのは自分でテーマを調べ、授業で発表をやり遂げたときです。第2学年対象の「哲学科演習Ⅱ」では一人ひとりに前期・後期各1回の発表を課します。関心のある思想家を選ばせますが、解説書だけでなく原典を読むことを徹底して指導します。この試練を乗り越えた学生は大きく伸びますね。

Q.原典からひも解くことが一番大切ということですか?

A.たとえばホッブズやデカルトでも原典を読むことが大切です。解説書ではなく哲学者本人のことばに直接ふれる方が、圧倒的におもしろく読み応えがあるからです。原典をじっくり読み込んでレジュメを作成し、発表当日はひとりで説明を行い、質問にも答えます。緊張する試練ですが、これを乗り越えることで学生たちは知らず知らずのうちに成長の階段を一段、また一段と上がっていきます。

社会に出てからも自分を支える、確かな「哲学力」を作る

Q.この分野の学びは、どんな力が身につくのですか?

A.第一に難解な本と向きあい簡単にあきらめない「粘り強く取り組む力」が身につきます。第二に、緻密な論理を読み解き他者に説明する経験を通して「論理的思考力」が身につきます。そして第三に、「本当にそうか」と多様な視点から「俯瞰して物事を見る批判的な力」が身につきます。あらゆる視座から考察することが哲学の本質と言えるでしょう。

Q.その力はどのような職業・進路につながるのですか?

A.この3つの力が身についていれば、どのような職業・進路を選択しても乗り切っていけると思います。それだけでなく、人生を上手に生きていくうえでも役に立つはずです。ぜひ「哲学力」を身につけて人生の荒波を乗り切ってほしいです。

先生のB面

サルトルやプラトンとの出あいが導いた古代哲学の研究

Q.先生の研究テーマを選ばれた理由やきっかけを教えてください

A.初めて哲学と出あったのは大学進学前、サルトルの「どんな状況にあっても人間は自由だ」ということばに救われたときでした。その後、いろいろな挫折が重なってメンタル的に荒れていた第4学年の頃、手にしたプラトンの本にふれてこころが洗われるような清々しい気持ちになりました。「自分の生きていきたい世界はここにある」と感じたあの感動がきっかけとなり、今も古代ギリシャ哲学の研究を続けています。

Q.少しマニアックな部分も教えてもらえますか?

A.「マニアック」なおもしろさといえば、日常のふとした瞬間にギリシャ語が語源のことばに気づけるところかもしれません。「マニアック」もそうですが、たとえば「アイドル」「カリスマ」「トラウマ」や、大学を表す「アカデミック」もギリシャ語由来です。身近なことばから、現代の日本が古代ギリシャの人たちと深くつながっていることがよくわかります。

アルバイトと学問に励み、仲間と熱く語りあった学生時代

Q.先生の学生時代はどんなことに熱中されていましたか?

A.学生時代は家庭教師や肉体労働など多様なアルバイトに励みました。第2学年からは自力で生活費を稼ぎ、図書館で多くの本を読み、語学の学習に打ちこみました。第3学年で同じ専攻の友達と熱く議論を交わした日々は最高の思い出です。当時は余裕がありませんでしたが、もっと旅行へ行っておけばよかったと少し後悔もあります。

身近な寺社巡りで感じとる、自然の豊かさと静けさ

Q.普段の趣味、ハマっているものなど、先生を元気づけるものを教えてください

A.最近ハマっているのは近所の寺社巡りです。身近にある境内は自然も多く静かで、歩くたびにこころが安らぎます。また、水音を聴くのも好きで、鴨川沿いを散策して四季折々の風景を感じたり、旅先で海を眺めたりして過ごす時間も愛おしいです。特に好きなのは夕暮れどきで、鮮やかな夕焼けを見つめていると生きている実感が湧き、こころが満たされます。できることなら、毎日でも見たい大切な風景です。

古代哲学のことば「隠れて生きよ」が教えてくれる真理

Q.座右の銘があれば、その理由なども教えてください

A.座右の銘としてあえて1つことばを挙げるなら、エピクロスの「隠れて生きよ」です。目立つと人から恨まれたり悪口を言われたりしてこころ穏やかに生きられず、幸福度が下がるでしょう。WebやSNSで全世界から見られる現代、何でもない投稿でも誹謗中傷に見舞われる危険性があります。学生には「SNSは見るだけにとどめ、自ら発信しないほうがいいよ」とアドバイスしています。

PROFILEプロフィール

  • 西尾 浩二 准教授

    文学部 哲学科

    【専門分野】 西洋哲学 【研究領域・テーマ】 西洋哲学/古代ギリシャ哲学

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