高校時代の違和感から「自由」を問い直し、優柔不断な自分の殻を破るため大阪のテント村や飯場へ飛び込みました。現場での生活を通して社会の矛盾を見つめる「都市下層研究」に挑みつつ、バイク旅や炊き出しの日常を愛しています。困難も不安も「自分の道」と受け止めて、前へ進みます。

先生のA面

飯場、寄せ場、ホームレス。豊かさの影にある矛盾を解く

Q.いま取り組んでいる研究はどんな内容ですか?

A.「都市下層研究」という、社会の発展の影に取り残された人たちの現実を見つめる研究をしています。具体的には、飯場で働く日雇い労働者や寄せ場、ホームレスの人たちの支援活動などです。今の豊かな日本で見えにくくなりましたが、確実に存在する社会の矛盾を、正しく捉えたいと思っています。

Q.社会の影にある現実に目を向けることは、先生の研究にどのようにつながっているのですか?

A.今、彼らの姿はますます見えにくくなっています。私の研究は、過去の「都市下層研究」をベースに聞き取りやフィールドワーク、史料分析を通してこれからの課題を考えています。さらに、地域政策やまちづくりの視点から「公」でも「私」でもない「共」の領域を、コモンズ(※)ということばを手がかりに探っています。
※社会や地域で共同管理される共有資源や、誰もが自由に利用できる公共的な空間・仕組み

誰もがこころ当たりのある「何か」を探り当てる旅

Q.「この分野はおもしろい!」と感じるのはどんな瞬間ですか?

A.私は研究において、現場に赴く「フィールドワーク」を大切にしています。日常の外出と違うのは記録することを徹底し、そこで得た知見を「誰かに伝える」点です。複数の社会を行き来する現場では、理不尽なことやショックな困難にも直面します。しかしそれらも、フィールドを理解する貴重な手がかりであり、伝えるための生きたエピソードになります。現場を伝えることは、自分が暮らす日常を問い直すこと。語られなければ気づかれないけれど、誰もがこころ当たりのある真実を探り当てられる予感を胸に、研究を続けています。

活動後の心地よい疲れ。それは確かな成長のサイン

Q.学ぶ中で、学生が「成長する(化ける)」のは、どんなときですか?

A.私が担当しているプロジェクトの「子どもの居場所づくり」の帰り道で、学生たちが活動後の激しい眠気や疲労を口々に語り合っていました。楽しそうな様子からは意外でしたが、ことばにできない現場での学びが「疲労」として現れた瞬間でした。人と深く関わるなかで、彼らは確かなものを吸収していることを実感しました。

Q.普段の何気ない会話から変化が出はじめたのですね

A.ことばにできない学びって、外からは見えないんですよね。それが「疲労」として語られて、初めて姿を現したわけです。何もしなければ成長はないけれど、やればすぐ成果が見えるものでもない。人と深く関わるなかで確かなものを吸収し、着実に成長しているんだなって、彼らに教えられました。

「人々の生活」が出発点。コミュニティデザインの視点

Q.この分野を学ぶと、どのような力が身につき、どのような職業・進路につながると考えますか?

A.コミュニティや地域政策って、なんだかつかみどころがないですよね。それはきっと、枠組みよりも「そこに暮らす人たちの生活」そのものだからです。どんな人がどんな暮らしをして、どんな悩みを抱えているのか。そのリアルを見つめることからすべてが始まります。ここで学ぶ「現場を理解して未来を描くプロセス」は、行政や福祉の仕事はもちろん、民間企業でも大いに生かせます。一緒に働く仲間や関わる人と良い関係を築き、課題を解決していくための普遍的な力になるはずです。

先生のB面

頭で考えるのをやめたとき、本当の自由が始まった

Q.先生の研究テーマを選ばれた理由や、研究の少しマニアックなおもしろさを教えてください

A.高校時代の「自由には自主規制が伴う」という先生のことばへの違和感から、私の「自由って何だろう」という問いが始まりました。大学でも悩み抜いた末、頭で考えるのをやめて旅に出たんです。「自由を知るために、あえて不自由に見える人のところへ行こう」と決めて辿り着いたのが、大阪のホームレスの人たちのテント村でした。延べ2カ月の住み込み調査から私の研究は始まり「飯場に入らなきゃ理由はわからん」と言われて次は飯場へ行きました。強制立ち退きの現場にも立ちあい、本当の支援とは何かを今も問い続けています。 

Q.先生の学生時代は、どんなことに熱中されていましたか?

A.学生時代は、うじうじしてばかりの優柔不断なタイプでした。縛るものは何もないのに、やりたいことが決められない。「自由とは何か」を問いすぎて、逆に不自由になっていたんです。一人旅や取材もしたけれど、あと数歩を踏み込む勇気がありませんでした。でも「頭で考えるだけじゃダメだ」とフィールドワークを始めてから、少しずつ変わり出します。いろいろな現場に飛び込むうちに、後先考えずにまず一歩「踏み込むコツ」がつかめていきました。

日常を抜け出す特効薬。ソロの焚き火と釜ヶ崎の炊き出し

Q.普段の趣味やハマっているものなど、先生を元気づけるものを教えてください。

A.行きつけのバーのマスターに勧められて始めた、ソロキャンプにハマっています。相棒は20年近く乗っている50ccのスーパーカブです。琵琶湖沿いや和歌山の山奥へ向かう道中は最高だし、ひとりの焚き火や星空も格別です。考えすぎる性格なので、行きたい時に衝動的に環境を変えられるのがあうようです。バーの飲み仲間とコテージに泊まりに行くのも、いい息抜きになっています。もう一つは、毎週土曜に釜ヶ崎で数百人分の炊き出しを手伝っています。そのときしか会わない人たちが、協力して毎週やり通してしまいます。あの不思議な集まりの魅力に惹かれ、通い続けています。

遠回りしても大丈夫。起きること全てが「歩むべき道」

Q. 座右の銘は何ですか? また、いま学生だったら、どんなことに注力して学んでいきたいと考えますか?

A.ここ5年ほど年に1回、易(※)を見てもらっています。研究も私生活も苦しかった時期に、古典の『中庸』にある「自分の道からは離れられない」ということばに出あいました。失敗や遠回りに思えることも全て自分の道なんだと思えて、救われたんです。今は、どんな苦難も自分のものとして受け入れて生きることこそが「自由」なんだと思います。だから学生たちにも、迷うならやってから悩んでほしいです。次へ進む力になりますからね。
※易(えき)は、中国で発祥した占いのひとつ。 おおむね『易経』に基づいて行われる。

PROFILEプロフィール

  • 渡辺 拓也 講師

    社会学部 コミュニティデザイン学科 講師

    【専門分野】
    労働社会学/都市社会学

    【研究領域・テーマ】
    都市下層/フィールドワーク/社会的排除

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