お寺の息子に生まれたという「きっかけ」を生かして谷大にやってきた岡田君は、友達や先生にも恵まれ、楽しい毎日を過ごしています。先生と話していても、即座に自分の言葉で返答ができるのは、普段からいろいろ考えている証。コロナ禍の中でも「得られるもの」に喜びを見出し、価値あるものへと認識を変えていく姿勢は、先生をして「偉い」と言わしめるほどです。岡田君が、「学ぶと人に優しくなれる」という真宗学をどう追究していくのか、今後の探究に注目です。

08 言葉に掴まれて、自分より大きな世界に

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岡田:卒業論文について、先輩たちからいろいろ聞くんですけど、何を書いて良いのかわからなくて。そういう相談はどうすればいいんですか?
 
一楽:このことが気になるとか、どうしてこうなんやろうとか、そういう気になることを調べて行けばいいんや。先輩からは、「このテーマやったら書きやすいよ」とか「これなら資料がたくさんあるから仕上げやすいよ」とかいう情報が先に来るけど、それだと書けないよね。
 
自分が尋ねていきたい、知りたいと思うことが意欲にもなるから、問題が見つかれば、卒業論文は書けます。今日話したことで僕が卒業論文を書くとすれば、「はたして僕は人間と言えるだろうか」とかいうテーマで書くかもしれん。「人間になる道は何なのか」とか。自分が疑問に思ったことを掘り下げる。それに対して親鸞やお釈迦様はどう言ってるかとか。だから問題が見つかれば、何を読んで何を調べればいいかわかるよね。
 
岡田:なるほど。何も知らない状態から入れるっていいですよね。真宗学科って言うと、真宗のことを知ってます、っていうエリート集団がくるようなイメージがありますけど、意外とみんなも、家は寺でお経もやってるけど、知らないですよね。僕の友達にも、寺院出身じゃない子もいて、みんなで同じスタートラインに立って勉強を始められるっていうのは、良いなと思います。それに、真宗学を学ぶと人に優しくなれるというか、何か自分にとって大切なものが掴めるのかなっていう気がします。
一楽:いや、君、偉いね。僕が君らの頃は、寮で暴れてただけだったわ(笑)。
 
岡田:先生たちはみんな、1年生の頃は「真宗なんて」って思ってたって仰いますよね。それでも大学教授にもなって学んでいけるっていうのは、真宗の奥深さを感じます。
 
一楽:それはやっぱり、自分が掴むというより、言葉の方が、僕らを引っ張っていくっていうことがあるんや。だからこの年になっても、学ぶことがあるんや。
 
岡田:生涯学び続けられる、人生の目標をもらえるっていうのは、すごくいいことですね。
 
一楽:自分よりも大きな世界があるからやろうね。自分に取り込むんじゃなくて。
 
岡田:自分自身が広い世界に入っていく。
 
一楽:だから尋ねてもきりがないしさ。
 
岡田:自分より大きな世界っていうのは、すごい表現ですね。自分が入っていく、か……。自分がやってて良かったなって思えるところまで勉強できたら嬉しいですね。
 
一楽:それは、やり続ければいいだけやから。満足できるまでやってくれたらいいよ(笑)。
 
岡田:今の先生の研究内容はどんなことですか?
 
一楽:仏様の教えを聞いたら人間はどうなるのか。仏弟子という問題なんですけど、教えを聞いた人間は、どういう生き方が開かれるのかというのがテーマです。それを今日の一言でいうなら、「人間になる」ということかな。人とは何かっていうことかもしれませんね。僕もずっと勉強の途中やけど、今日はいろいろ勉強になったわ。ありがとう。
 
岡田:いえ、僕のほうこそ、ありがとうございます。

PROFILEプロフィール

  • 一楽 真

    文学部真宗学科 教授



    1957年石川県生まれ。大谷大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。現在、大谷大学教授。
    研究のテーマは「親鸞の仏弟子論」。仏教はどのような生き方を人間に開くのか、それを親鸞の生涯と思想を通して尋ねることを目的としている。方法としては、親鸞がどのようにこの世を見つめ、どのように人間の問題を捉えていたかを、『教行信証』をはじめとする親鸞の著作を通して明らかにしていく。あわせて、親鸞を生み出した歴史と、その時代についても考察を加えていく。



  • お寺の息子に生まれたが、元々好きな分野は理系だったため、大谷大学を受験するつもりはなかった。しかし将来自分にしかできないことを考えると、自分の境遇を生かしてやってみようかと思うようになり、ギリギリまで考えた末、受験を決意した。
    先生と話していても、即座に自分の言葉で返答ができるのは、普段からいろいろ考えている証。コロナ禍の中でも「得られるもの」に喜びを見出し、価値あるものへと認識を変えていく姿勢で、「学ぶと人に優しくなれる」という真宗学をどう追究していくのか、今後の探究に注目。