障がい者施設で実習を始めた行徳さんの初日は、大泣きで終わりました。利用者さんとコミュニケーションが取れず、孤独で切なくて、1か月という長い期間に、不安しかありませんでした。それでも職員さんに倣い、気持ちを切り替えるようになってからは、毎日がとても楽しくなったと言います。一日に何度も名前を聞いてきたり、しゃべりかけてくれる利用者さんが愛しくて、定まった将来の道に向けて、今後は資格試験の勉強に励みます。

07 忘れられても、またそこから始められる

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中野:実習をやったら、今まで受けてきた授業が、実はすごい大事やったってわかったでしょ?
 
行徳:そう!!授業では「何これ?」と思いながらやってたんですけど、大事なんやなって。もっと勉強せなあかんなって思って。知識不足過ぎて。「頑張らな」って感じました。
 
中野:知識って大事よね。利用者さんのことを理解するためにも、職員さんが何でこんなに素敵なんやろうってことを理解するためにも、知識って必要ね。これから4年生になるし、社会福祉士の国家試験に向けても、勉強を頑張らないといけないね。
 
行徳:資格、取りますよ。でも……勉強しないで現場に出れたらいいのに。
 
中野:それはないな(笑)。職員さんも、めっちゃ勉強してはったでしょ?行徳さんも、あんな職員さんになりたいでしょ?
 
行徳:なりたいです。
 
中野:じゃあやっぱり勉強しないと。合格して、知識を持って良い支援ができるといいね。就職もこれから考えていくけど、障がい者の分野で働きたい?
 
行徳:はい。なんなら実習した施設に。
 
中野:そんなこと言われたら、施設の皆さんも喜んでくださるかも。でも障がいのある人たちの支援をする施設は他にもたくさんあるよ。全国各地にすごい素敵な取り組みをしてる施設がたくさんあって。今はコロナ禍だからなかなか思うように動けないけど、いろいろな施設へ見学に行ったりできるといいね。
行徳:行きたいです!
 
中野:そうだよね。障がいのある人たちが経営しているレストランとか、言葉で発信できないかわりに、障がいのある人が作成したアートを通して社会にメッセージを発信するサポートをしてはるところとか。地域にいろんな人がいるよっていう時に、ついつい私たちって、障がいのある人達もいることを見逃してしまいがちなんやけど、実は社会の中にはたくさんいてはる。行徳さんが出会ったように、皆さんめっちゃ素敵で、個性があって、キラキラしてて。
 
行徳:個性ありまくりで(笑)。
 
中野:そうそう。そういう人たちをいろんな形で応援してはる事業者もたくさんあるから。実習を通して見えてきたこと、すごい大きかったね。ほんまによく頑張ったもんねえ。
 
行徳:実習に行って、本当に良かったなと思います。
 
中野:その言葉を聞いて、ほんとほっとしました。最初はどうしようかと思いましたよ。実習中に「どう?」って声かけた瞬間、行徳さん、泣き出さはるし(笑)。でも最後に笑って終われたのは良かったね。
行徳:最終日の挨拶の時は、泣きました(笑)。
 
中野:利用者さんは何かおっしゃってました?
 
行徳:「またね」って。
 
中野:そっか。じゃあ「またね」を実現しに行かなきゃね。
 
行徳:行きますよ。職員さんが「ボランティアしませんか?」って言って下さったので、やりますって言って来ました。でも、利用者さん、覚えてくれてるかな……。
 
中野:覚えておられないかもしれないけど、会えば思い出すかもしれない。あるいは、忘れてはっても、出会ったらまたそこからスタートして、新しい関係が築けるかもしれないですよね。利用者さんにはいろんな特性があって、記憶を十分保てない方もいはるんだけど、でも楽しかったっていう記憶はきっと残ってるから、そういうのを思い出してくれはるかもしれませんしね。出会って知り合っていく、そういう時間が増えていくのも楽しみですね。

PROFILEプロフィール

  • 中野 加奈子

    社会学部 コミュニティデザイン学科 准教授



    佛教大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会福祉学・佛教大学)。医療法人社団敬誠会合志病院(医療ソーシャルワーカー)、佛教大学福祉教育開発センター(契約専門職員)、(財)ソーシャルサービス協会ワークセンター(非常勤訪問相談員)を経て、現在に至る。社会福祉士。
    私たちの社会に広がる貧困・格差問題の解決と、人間らしい暮らしの実現を目指すソーシャルワーク論を研究している。社会学などで取り組まれてきた生活史研究に学びながら、ソーシャルワークにおける生活史の活用を「生活史アプローチ」と位置づけ、理論的整理と具体的な実践方法の構築を目指している。また、深刻化する貧困問題の実態解明にも取り組んでいる。



  • 知り合いが誰もいない、自宅から遠い大学に通い始めた頃は不安だったものの、思い切って話しかけてみたことで助け合える友だちにも恵まれた。
    3年生からはゼミでの学びも始まり、また障害者施設での実習も経験した。中学生の時から思い続けた「高齢者の人と関わりたい」という将来の道が、より明確なものになってきた。今後は、資格試験の勉強に励む。