障がい者施設で実習を始めた行徳さんの初日は、大泣きで終わりました。利用者さんとコミュニケーションが取れず、孤独で切なくて、1か月という長い期間に、不安しかありませんでした。それでも職員さんに倣い、気持ちを切り替えるようになってからは、毎日がとても楽しくなったと言います。一日に何度も名前を聞いてきたり、しゃべりかけてくれる利用者さんが愛しくて、定まった将来の道に向けて、今後は資格試験の勉強に励みます。

06 大好きになった愛しい人たちと過ごした時間

OTANI'S VIEW

更新日:
中野:利用者さん1人を選んで、その方のニーズを把握して、よりよい生活を送れるようにするためにはどうすればいいかっていう個別支援計画の立案はどうでした?
 
行徳:まず、皆さん魅力的すぎて「この人も知りたい」「この人も知りたい」って思ったんですよ。最初は5人くらい個別支援計画を立てたいと思ったんですけど、さすがに大変なので1人に絞らないといけなかったんですけど、もうとにかく利用者さんが愛しくて。
 
中野:大好きになっちゃったんだね。最初は孤独だったけど。
 
行徳:そんな悲しい気持ちは、もう最後の週には全然思ってません。
 
中野:やっぱり、利用者さんが行徳さんを受け入れてくれたっていうのが、嬉しい体験になったのかな。行徳さんも、支援をするっていうんじゃなくて、一緒に過ごすっていうのが大事だっていうことに気づいたんだ。
 
行徳:実習中「支援しなきゃ」とは思ってなくて、家族でもないし友達でもないけど、この人の役に立ちたいなって思って。利用者さんを「支援を受ける必要のある人」として見てなかったです。
 
中野:そっか、そんな気持ちがわいてきたんだ。その時間が楽しいし、その人が大事だから、その人の役に立ちたいなって思ったんだ。
 
行徳:そう、そう。1人の人として。
 
中野:ええ実習したねえ!!
 
行徳:でも今はコロナ禍で、利用者さんの手作りクッキーの販売もできなかったし、旅行も中止だったし。行けてドライブとか。でもいつも同じ空間で過ごしてる利用者さんが、お弁当を作って施設の方の運転でドライブに行くときとか、いつもと違う環境にいるところを見たら、普段は怒ってることが多い方も静かになってて、それを見てると「ドライブ好きなのかな」と思ったり、逆にいつも静かなのにドライブの時はめっちゃしゃべってる利用者さんもいて、新しい一面も見れて、楽しかったです。
でも、利用者さんとしゃべりたいから近くに行くんですけど、しゃべりに行くのが楽しすぎて、最後の週はメモとか取ってなかったです。日によってはちょっと怒ってたりする人もいるんですけど、それでも利用者さんに会うのがめっちゃ楽しくて。だから、楽しかったことは覚えてるけど、何を話したかは全部覚えてないから、実習記録はめっちゃ大変でした(笑)。
 
中野:施設でのケアって、毎日を安全に楽しく過ごすっていう目的もあるけど、そこでの暮らしっていうのは、いろんな場面を作り出して、利用者さんの良い面を引き出そうとしてるってこともわかった?
 
行徳:はい。普通は悪い面を良い面に変えようとするけど「良い面をもっと伸ばそう」っていう考えが大事なんやなって。
 
中野:「できないことを直しなさい」って言われるとみんなしんどくなるけど「良いところをもっと伸ばしましょう」って言われたら気が楽になるし、そういうメッセージをいろんな人に出していくのが、社会福祉の役割の1つということなのかもしれませんね。きっとね。

PROFILEプロフィール

  • 中野 加奈子

    社会学部 コミュニティデザイン学科 准教授



    佛教大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会福祉学・佛教大学)。医療法人社団敬誠会合志病院(医療ソーシャルワーカー)、佛教大学福祉教育開発センター(契約専門職員)、(財)ソーシャルサービス協会ワークセンター(非常勤訪問相談員)を経て、現在に至る。社会福祉士。
    私たちの社会に広がる貧困・格差問題の解決と、人間らしい暮らしの実現を目指すソーシャルワーク論を研究している。社会学などで取り組まれてきた生活史研究に学びながら、ソーシャルワークにおける生活史の活用を「生活史アプローチ」と位置づけ、理論的整理と具体的な実践方法の構築を目指している。また、深刻化する貧困問題の実態解明にも取り組んでいる。



  • 知り合いが誰もいない、自宅から遠い大学に通い始めた頃は不安だったものの、思い切って話しかけてみたことで助け合える友だちにも恵まれた。
    3年生からはゼミでの学びも始まり、また障害者施設での実習も経験した。中学生の時から思い続けた「高齢者の人と関わりたい」という将来の道が、より明確なものになってきた。今後は、資格試験の勉強に励む。