障がい者施設で実習を始めた行徳さんの初日は、大泣きで終わりました。利用者さんとコミュニケーションが取れず、孤独で切なくて、1か月という長い期間に、不安しかありませんでした。それでも職員さんに倣い、気持ちを切り替えるようになってからは、毎日がとても楽しくなったと言います。一日に何度も名前を聞いてきたり、しゃべりかけてくれる利用者さんが愛しくて、定まった将来の道に向けて、今後は資格試験の勉強に励みます。

04 不安で切なくて、大泣きした

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中野:それで、いよいよ秋に障害者支援施設に実習に行くことになって、どうでしたか、実習は。
 
行徳:最初は場所さえも知らなくて。遠いんやろなってことはわかったけど、「ここに毎日通うの?」って。片道2時間くらいかかるやん……って思ってたら、泊まりって知って、「え……」って。
 
中野:宿泊実習やって知らなかったのかぁ。
 
行徳:そうなんです。でも同じ実習施設に行くのは3人ってなってたから「泊まりやったとしても、他に2人いるし」って思ってたら、まさかの「それぞれ実習期間違う」という事実がわかって。
中野:行徳さんは9月からで、残りの2人は11月からでしたからね。
 
行徳:そこもびっくりしたし、説明会も1人で。最初から不安でした。「ここで1カ月もか……」って。でも、泊まりってわかって、1人暮らしって考えようって思ったら、ちょっと楽しかったです。
 
中野:じゃあ楽しみにしながら行って、どうでした?
 
行徳:1日目が終わったら「はあ……」って、ため息しか出なかったです。メモも取らなあかんし。自分、多分2つのことが一緒にできないんですよ。だから実習初日は、メモを取らな記録が書けへんって思ったから一生懸命メモを取ったんですけど、利用者さんのこととかあんまり見れてなくて。宿舎に帰ってきて、眠い中で記録を書いてたんですけど、最初は3時間くらいかかって。こんなん毎日できんのかなって思って。初日は寝たのが夜中の1時とかやし。朝起きたら、寝た感じしなかったんですよ。ベッドも堅かったし。
 
中野:それ、ずっと言ってるよね(笑)。
 
行徳:ホテルのベッドみたいなのかと思ってたから(笑)。
 
中野:でも、ええ施設やったと思うよ。私が学生時代に実習に行った時は、宿泊はプレハブの建物で寒かった。行徳さんが実習した施設は、実習生が宿泊できるように配慮されていて、充実した環境だったと思う。
行徳:最初の1週間くらいは私も1人やったんですけど、2週目くらいから違う大学の方が来られて。でもそっちは和室だから固いベッドじゃないし、テレビもあったし。しかも2人で実習に来てて、悩みとかも言い合えるし。「なんで自分は1人なんやろう」って、いろいろ悲しくなっちゃって。それに、私の実習先は宿泊施設から歩いて10分くらいなんですけど、彼女たちは同じ敷地内の事業所だったんで、パッてすぐに行けるじゃないですか。そういうのを見たら、私は1人やし遠いしって悲しくて。
 
中野:あの涙のわけには、そういう気持ちがあったのか……。
 
行徳:そうです。全然知らんとこやし、誰も友達おらんしって思ったら、1カ月やっていけるか不安過ぎて、1日目の夜ご飯食べながら泣いてたんですよ。職員さんも通るんですけど、気づかれへんようにしようと思ってたのに、「大丈夫ですか?」って声をかけられて。そしたらなおさらブワーって泣けちゃって。「何か困ったことありますか?」って言われたんですけど、利用者さんに何かをされたとかじゃなくて、不安で1カ月やっていけるのか心配だって言ったら、「みんな最初はそうだから大丈夫ですよ」って言ってもらって。社会福祉学コースのみんなも実習に行ってるし、不安なのはきっと私だけじゃないなって思ったんですけど、次の日になったらまた切なくなってて(笑)。1週間くらいはもうずっと不安でした。

PROFILEプロフィール

  • 中野 加奈子

    社会学部 コミュニティデザイン学科 准教授



    佛教大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会福祉学・佛教大学)。医療法人社団敬誠会合志病院(医療ソーシャルワーカー)、佛教大学福祉教育開発センター(契約専門職員)、(財)ソーシャルサービス協会ワークセンター(非常勤訪問相談員)を経て、現在に至る。社会福祉士。
    私たちの社会に広がる貧困・格差問題の解決と、人間らしい暮らしの実現を目指すソーシャルワーク論を研究している。社会学などで取り組まれてきた生活史研究に学びながら、ソーシャルワークにおける生活史の活用を「生活史アプローチ」と位置づけ、理論的整理と具体的な実践方法の構築を目指している。また、深刻化する貧困問題の実態解明にも取り組んでいる。



  • 知り合いが誰もいない、自宅から遠い大学に通い始めた頃は不安だったものの、思い切って話しかけてみたことで助け合える友だちにも恵まれた。
    3年生からはゼミでの学びも始まり、また障害者施設での実習も経験した。中学生の時から思い続けた「高齢者の人と関わりたい」という将来の道が、より明確なものになってきた。今後は、資格試験の勉強に励む。