こだわっている古着のことについて、語りだしたら止まらないほどの熱情を持っている青山君は、卒論でも古着について取り組みます。自分の足でデータを集めに行ったり、自主的に気になることをまとめたりして卒論に備える一方で、純粋に古着を楽しみたいから、仕事にはしたくないと、将来の希望もはっきりしています。1年生の時にも対談した先生に温かく見守ってもらいながら、好きなことをとことん追求しています。

08 資料から導く3つの仮説

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青山:先生って、なんで大学の先生になろうと思ったんですか?
 
脇中:青山君くらいのときには、なろうなんて思ってなかったけどね。大学の教員になろうと思ったのはもっとずっと後で、非常勤講師になったのも30代半ばだし、正式に専任になったのも40代後半ですよ。もともとは乳幼児の発達を研究してたんです。障がいのある子が成長して社会で問題になる場合、圧倒的に被害者になることが多いけど、加害者になる人もいてね。そういう人たちのことについて、専門にやる人がいないんですよ。もともと誰もいなかったところでやってきたから、後が続かないっていうのはあるね。
今も法廷で尋問を受けるときは緊張しますよ。最初の頃は、検事や裁判官だって弁護士だってみんな年上でさ、見下ろされても負けへんぞって思ってたし。法廷にいるときが一番アドレナリン出てるかな。
 
青山:どんなことをするんですか?
 
脇中:例えば、虐待を受けた人が罪を犯してしまうことがあるんですよ。性的虐待の被害者が、殺人を犯したりするとか。私は情状鑑定で「この人も元は被害者だったんです」って書くんだけどね。でも主張はするけど、「どんなに過酷な環境に育っても、罪を犯してない人だっているじゃないですか」って言われちゃったら、それで終わりっていうところはありますね。残念ですけどね。
最近のケースなんだけど、被害を聞き取る面接法っていうのが開発されていて、それに従って聞き出したら、義理のお父さんから性的虐待を受けた、っていう女の子がいると。で、裁判の一審ではそのお父さんが有罪になったんだけど、資料を見せてもらったら、これ、本当に体験したと言えるのかなって思ったんですよ。それに加えて、有罪になったお父さんが、取り調べがきつくて自白したと。そういう資料を見たら、性的虐待をしたというストーリーと、被害を受けたというストーリーが嚙み合わないんですよ。何で合わないのか。どっちかが嘘をついているのは確実なんですよ。だから私は、3つの仮説を立てたんです。女の子が嘘をついている場合と、お父さんが嘘をついている場合、そしてもう一つは、どっちも嘘をついている場合。そうしたら最終的に、どっちも嘘をついていた。
 
まあ裁判所に理解されるかはこれからなんだけど、その意見書を出したことで控訴審も延期になったから、読まなきゃいけないと思わせられたんだと思います。
 
青山:それ、興味深いですね。
 
脇中:私のところに来る学生さんは犯罪に関心がある子が多いんだけど、やってみればって言うと、逃げていくんですよ。怖いもの見たさなのかな。犯罪には興味ない?
 
青山:興味はありますけど、いざ卒論で取り組むってなると、難しいかな。
 
脇中:そっか。「サイコパスに興味があります」って言う人は結構いるんだけど、そんなんじゃなくて、本当に追い詰められた普通の人たちが罪を犯すのが大半なんだけどね。まあ、興味があることをやるといいよね。

PROFILEプロフィール

  • 脇中 洋

    社会学部 現代社会学科 教授



    1959年東京生まれ。京都大学農学部を経て、1996年立命館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。1999年花園大学講師、2002年同助教授、2006年教授。2008年より大谷大学教授、現在に至る。臨床心理士、保育士。
    「コミュニケーションの発達的変容」を研究テーマとして、以下の個別課題に取り組んでいる。「乳児の初期コミュニケーションの生成と変容」「発達障害児や聾児の対人コミュニケーション」「取調べにおける供述分析」「高次脳機能障害者のピアサポートによる自己の再構築」「犯罪加害者の更生」。いずれの課題も、「ヒトはどこまで変わりうるのか」の探求を目指している。



  • 1年生の対談時に脇中先生から、研究は「できることではなく、好きなことから始める」とのアドバイスを受けたとおり、卒論の研究テーマは、語り出したら止まらないほどの熱情を持っている古着について。自分の足でデータを集めに行ったり、自主的に気になることをまとめたりして卒論に備える。
    その一方で、純粋に古着を楽しみたいから仕事にはしたくない、とワークライフバランスの視点で考え、最近興味を持ち始めたIT関係で、特に企画や開発に関わる仕事を希望している。早期選考を狙って、就職活動も既に始めている。