ちょっと堅苦しいかもと思って入った仏教学科は、蓋を開けてみると、浅井さんにとってとても楽しいところでした。様々な仏教のエピソードも、そこに潜む本質を知るのが面白いと言います。仏教が長く伝えられてきたのは、世界各国でそこに見出された価値を言葉で表現した蓄積があるからだと教えられ、自分の言葉で語ることの重要さを噛み締めています。新たな世界に踏み出す勇気を持つことこそが努力することだと心に留め、一層勉強に励むつもりです。

05 自分が感じたことを、言葉を積み重ねて共有可能な形にする

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釆睪:浅井さんお勧めの映画は?
 
浅井:最近見たのは『マイ・インターン』っていう映画です。若い世代と年上の世代の違いとかいざこざがあって、どこが面白いとははっきり言えないんですけど、面白かったです。
釆睪:僕もあれは面白く観た憶えがあります。その面白さを何とかして言葉にする努力をしてほしいと思います。映画って、まるで文化の1ジャンルのような顔してるじゃないですか。でもただの娯楽だよ。小説とかもそうですよね。素晴らしい小説家を「先生!」って呼んで敬ってるけど、ただの娯楽でしょ。「趣味は観劇です」って言うと「高尚な趣味ですね」って言われる。でも「ゲームが好き」っていうと、軽く見られるよね。その違いは何だと思う?
 
浅井:ゲームと、演劇や小説との違いってことですか?
 
釆睪:そうそう。僕らの世代では漫画もわりと馬鹿にされる風潮があったけどね。
 
浅井:最近はゲームもそういうところありますね。eスポーツって言われたりしてきてますし。映画とか小説って、何か自分に得るものというか、学ぶことがあると思うんです。ゲームもそういうところはあると思うんですけど、世間の人から見たら、プラスになることが少ないと思われるから怒られるんじゃないですか?ただただ時間を浪費しているイメージで。
 
釆睪:娯楽っていうのは、新しい世界に踏み出す大きなきっかけになるんですよね。映画や小説との違いって、そこに見出された新しい世界を言葉で表現した蓄積の差だと思うんです。
 
だから近年になって漫画の印象が変わってきたことも、漫画について語る言葉が積みあがってきたからだと思うんです。ゲームはまだその積み上げがないんだろうと思うんです。そういう意味では、先ほど浅井さんが言った「面白かったけどうまく言えない」というのは、浅井さん自身が他の人が見出せなかった面白さを、どうやって他の人と共有可能な形で示すかっていう大きな課題でしょうね。
浅井:はい。自分の言葉で表現するっていうのは本当に大切だと思います。自分が面白いとか好きだっていうのを他の人に伝えるのは苦手なので、自分の言葉で表現するトレーニングをしておかないともったいないですね。
 
釆睪:谷大って結構自由なところだから、卒論もアイドルグループのことを仏教に絡めて書いた人がいたんだけど、最初はどこが良いのかって聞くと「めっちゃいいです」とか「すっごくいいです」って言うだけだったんです。それでは何も共有できない。
 
浅井:そうですよね。自分がわかりやすく伝えたことで、他の人がまた好きになってくれたらさらに自分も楽しくなりますもんね。
 
釆睪:そうだよね。言葉っていうのは困ったことに、自分しか理解できなかったら言葉にならないからね。自分が感じたことを他人と共有可能な言葉にどうやって変換していくかっていうことは、これから重要なことだと思いますよ。ゲームだって、好きな人は「一言でゲームって片づけるなよ」って言うでしょう。

PROFILEプロフィール

  • 釆睪 晃

    文学部 仏教学科 教授



    1969年、大阪府生まれ、滋賀県育ち。安曇川高校卒業。明治大学文学部文学科、大谷大学文学部仏教学科を卒業。1999年、大谷大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。2004年大谷大学文学部着任、2010年同大学准教授、2021年同大学教授、現在に至る。
    異国の宗教でしかなかった仏教が、中国においてどのように受容されていったのかに興味を持っている。特に、5世紀初頭に活躍した鳩摩羅什は、大乗仏教を初めて体系的に中国に伝えたという点で注目すべき人物である。鳩摩羅什自身はどのような思想を持っていたのか、また、その周囲にいた人物は鳩摩羅什からどのような影響を受けたのかを中心に研究を進める。



  • 父親に薦められたことと、大学の雰囲気や環境が自分に合ったことから、大谷大学を目指すことにした。入学して実際に授業を受けてみると、堅苦しいかもと思っていたイメージとは異なり、伝説が多い仏教のエピソードも、そこに潜む本質を知るのが面白いと感じている。
    学業以外では映画研究部に所属しており、大学生のうちにいろいろなことをやってみたいと思っている。将来の目標も最終的には父親の仕事を継ぎたいと考えているが、大学卒業後はまず社会に出て経験を積む予定。