ちょっと堅苦しいかもと思って入った仏教学科は、蓋を開けてみると、浅井さんにとってとても楽しいところでした。様々な仏教のエピソードも、そこに潜む本質を知るのが面白いと言います。仏教が長く伝えられてきたのは、世界各国でそこに見出された価値を言葉で表現した蓄積があるからだと教えられ、自分の言葉で語ることの重要さを噛み締めています。新たな世界に踏み出す勇気を持つことこそが努力することだと心に留め、一層勉強に励むつもりです。

02 伝説の中に本質を探る

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釆睪:仏陀のエピソードでは、どんなのが面白かったですか?
 
浅井:印象に残ってるのは、「四門出遊(しもんしゅつゆう)」ですね。仏陀が3つの苦しみ「老・病・死」に出会って出家することを決めるんですけど、実際に自分に置き換えてみたときに、今まで病気とか死っていう苦しみに向き合ってきたことがなかったなと思ったんです。もし経済学部とかに進学していたらなかなかそういうことは考えられなかっただろうなと思って印象に残りました。
釆睪:医療系や福祉系とかでも死や病に向き合うことがあるけど、そういうところと比べて、仏教学の特徴ってどういうことだと思う?
 
浅井:医療は病気とか死に対して、どうしたら良くなるのかっていう面で向き合っていくと思うんですね。仏教というのは、いずれ誰もが体験することをどのように捉えて生きていくかっていう面で勉強していく学問じゃないかなと思います。
 
釆睪:そういうところはありますよね。おそらく医療とか福祉の人たちって、目の前で苦しんでる人たちをどう救うか、っていうことを考えると思うんです。それに引き換え、仏教学って基本は自分にとってどうなのかっていうことでしょう。今の世の中は、大人でも、死や病が自分にとってどういうものかってことはなかなか考えられません。考えずとも生活できてしまっているから。そういう中で「四門出遊」というエピソードが面白いと思えたってことは良い視点ですね。
でもあれ、伝説ですからね(笑)。仏教ってそういうエピソードがいっぱいあるんですよ。でもずっと伝えられてきているっていうのは、歴史的事実よりもよっぽど価値があるかもしれない。何か本質的なことを掴んでいるんですよね。それが何なのかを考えるのはものすごく重要なことです。それが自分にとってどういう意味を持つのか。その意味を考えたところで、おそらく明日のご飯が美味しくなるわけではありません。でも、そういうことを考えられるってことはとても重要だと思います。
 
浅井:そうですね。四門出遊については「仏教学演習」でも勉強しましたし「人間学」でも習ったんです。どちらの授業でも扱ったってことは、伝説であろうと何か本質を含んでいると思います。僕も大きな病気にかかったとか生死をさまようとかいう体験はないので、そういうことについて考えることは難しいんですけど、この年で病気とか死について考える機会を持てたっていうことが良いことじゃないかなと思っています。
 
釆睪:そうだね。「四門出遊」のエピソードで、老人を見て「あれは何だ」って思ったっていうのがあるけど、あれはそれまで自分が老いるということを考えられなかったってことなんだろうね。それこそ在原業平の歌に「つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを」というのがあるんです。「死っていうのはいつか経験するとは聞いてたけど、今日とは思わなかった」っていう意味です。おそらく多くの苦しみに対して僕らはそう思ってるんだろうと思うんです。でもいつか自分が当事者になるかもしれない。そこに気づけるっていうのはすごいですね。

PROFILEプロフィール

  • 釆睪 晃

    文学部 仏教学科 教授



    1969年、大阪府生まれ、滋賀県育ち。安曇川高校卒業。明治大学文学部文学科、大谷大学文学部仏教学科を卒業。1999年、大谷大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。2004年大谷大学文学部着任、2010年同大学准教授、2021年同大学教授、現在に至る。
    異国の宗教でしかなかった仏教が、中国においてどのように受容されていったのかに興味を持っている。特に、5世紀初頭に活躍した鳩摩羅什は、大乗仏教を初めて体系的に中国に伝えたという点で注目すべき人物である。鳩摩羅什自身はどのような思想を持っていたのか、また、その周囲にいた人物は鳩摩羅什からどのような影響を受けたのかを中心に研究を進める。



  • 父親に薦められたことと、大学の雰囲気や環境が自分に合ったことから、大谷大学を目指すことにした。入学して実際に授業を受けてみると、堅苦しいかもと思っていたイメージとは異なり、伝説が多い仏教のエピソードも、そこに潜む本質を知るのが面白いと感じている。
    学業以外では映画研究部に所属しており、大学生のうちにいろいろなことをやってみたいと思っている。将来の目標も最終的には父親の仕事を継ぎたいと考えているが、大学卒業後はまず社会に出て経験を積む予定。