話し慣れしている小川君は、人と気軽にコミュニケーションを取ることができます。授業はどれも面白いと言いますが、その中でも特に、もっと聞きたいと思う授業の場合は、積極的に先生の研究室に出かけていき、授業以外の場でもたくさんのことを吸収しています。過去を学ぶ過程では、歴史上の人物が実際に扱ったものに触れる機会もあります。机上の勉強だけではない多様な学びの中で、将来は歴史の先生になりたいという夢をより具体的に描いています。

06 今の私たちが歴史を活かす意義

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國賀:教師になって自分の思うような授業をするためには、大学の4年間でどういうことを目指していきたいですか?
 
小川:専門性を高めるという意味では、自分の所属しているゼミの時代についてはしっかり押さえておく必要があるかなと思っています。教科書に載っているような大きい事柄だけを教えるのは誰でもできると思うんですけど、なんでそれが起こったのかっていう経緯とか細かい部分まで調べていくとなると、やはり教科書だけでは限界があるので、難しいところではあるんですけど。
 
國賀:例えば、歴史学をなぜ学ぶかみたいな、そういう本も何冊か読んでみてもいいかもしれないですね。歴史理論というものもありますし、いわゆる各時代にこういうことが起きたっていうことだけじゃなくて、それを全体を通してどう考えていくかっていうふうなものも何冊か読んでもいいかもしれないです。そういうところからストンと自分の考えにあてはまるものを読み取ってもらえればなと思います。
 
小川:先生が考える歴史を学ぶ意義って、どういうことですか?
國賀:なぜ歴史を学ぶかっていうのは、当然、今の私たちにとって面白い、つまり現在や未来に活かせるっていうことが大事だと思うんです。例えば私は絵画史が専門なんですけど、阪神淡路大震災や東日本大震災を経験する中で、昔の人の感覚がわかる部分が出てきたんですよ。自然の恩恵とか天変地異とか、今の我々とは無縁のように思っていたものが現実に降りかかってきましたよね。それまでは、昔の人は美しい四季を描いたとか、のどかな風景はきれいだから描いてるんやろなとか、そういうことしか思わなかったんです。
 
でも震災とかの脅威が我身に降りかかってくると、当時の人の切実さ、絵に描いているような生活を送りたい、自然の脅威もなく、順調に食べ物が実り、収穫したいっていう祈りの気持ちで描かれたんだなっていう見方ができるようになったんですね。歴史を学んで今に活かすっていうのは、そういうことなのかなって思うようになりました。
そうなってくると、天変地異が起きたときは、まずは人命なんですけど、ある程度のことが一段落した段階では、水で文書が流されたものを回収したり、ダメになったものを生き返らせる、いわゆる文化財レスキューを考えないといけないなと思います。震災からまだ日が経ってないのに、そういうことを考えるのかっていう批判の声も当然あるとは思うんですけど、でもやっぱり歴史を学んでいる私たちだからこそ、人命が落ち着いたら、そっちのこともきちんと考えていくべきだと思います。
 
倒壊している家屋から仏像を救ったり、水をかぶった文書を修復したり、これにはいろいろなやり方があるんですけども、どうするのがいいかっていうことを研究している技術的な研究者もいるわけで。もちろんお金がいることなので、そこらへんは、国をはじめいろいろなところからの援助があればいいなと思うんですけどね。歴史の学会で呼び掛けたり署名をしたりもしましたけど、歴史を今後に活かすっていうのは、そういうことも重要になってくるかと思います。

PROFILEプロフィール

  • 國賀 由美子

    文学部歴史学科 教授



    大阪府生まれ。同志社大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。文学修士。1988年滋賀県立近代美術館学芸員、同主任学芸員、同専門学芸員を経て、2017年大谷大学文学部教授。
    平安末の後白河院政期を中心に、美術、とくに絵画作品から読み取れる歴史事象を考察してきた。また、美術館に在職してからは幅広い年代のものを対象に、まず作品を観て分析し、作品そのものが語ってくれる多くの事実を拾い上げられるよう努めてきた。中世絵巻物、そして近世から近代に至る「やまと絵」を中心に、なぜその作品は制作されたのか?を問い続けて行きたい。



  • 小学生の頃に買ってもらった本がきっかけで歴史に興味を持ち始める。高校の時に生徒会長をしていたこともあり、人と気軽にコミュニケーションを取ることができる。教師をしていた祖父や、高校の時の担任の先生に憧れて、将来は高校の社会科教員になる夢を叶えるため、大谷大学を選んだ。
    大学の授業はどれも面白く、もっと聞きたいと思う授業の場合は、積極的に先生の研究室に出かけていき、授業以外の場でもたくさんのことを吸収している。過去を学ぶ過程では、歴史上の人物が実際に扱ったものに触れる機会もある。机上の勉強だけではない多様な学びの中で、将来自分はどんな先生になりたいか、具体的に描いている。