自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている河村君は、授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手だそうです。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程は、とても面白いと言います。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢は、今後の研究において必ず生きてきます。「いつでも話を聞く」という教員に支えられ、河村君の成長は続きます。

05 本を通して過去の人とも対話する

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西尾:本はよく読む?
 
河村:苦手です。最近、熱が冷めてきたっていうのを読まない言い訳にしてるんですけど。
 
西尾:それは、大学生活に慣れてきたんだね。前期は、他の学生がどうやってるかっていうのが見えなかったじゃない。後期は周りの学生さんの様子を見て、ある程度要領よくできるようになってきたのかもしれない。でも本を読まないと、今生きてる人としか話ができなくなっちゃうから。ソクラテスも、本があるから理解ができるんだよ。
 
河村:それはわかります。本と産婆術(※)をするっていうか。
 
西尾:だからディスカッションと本を読むのと、両方やらないとね。
河村:はい。最近読んだのは、ランドルフ・ネッセっていう人の本です。僕は大学に来た理由が、自己成長と自己治癒で、社交不安障害っていうのが邪魔だなって思っていて。ネッセは、進化心理学とか進化生物学の視点から見ると、不安とか恐怖とかストレスは必要だって言うんですよ。これから起こる危ないことに対して、回避しようとする危機管理の点から見ると大事だと。でも今の時代って、狩猟をやってるわけじゃないから、危機を回避するっていうこと自体が邪魔になってくるんですよね。そういったものが現代にとっては足かせになっているって。その本はすごく面白いと思いました。
 
西尾:その考えで行くと、対人恐怖症的なことは欠点じゃないかもしれないよね。それがプラスに働くこともあるかもしれない。社交的な人はうまく人生をやっていけるんだろうけど、前に出ることで失敗する確率が大きくなることもあるわけだから、ある程度の不安っていうのは必要かもしれないね。人が怖いっていうのは、なんでそう思うの?
 
河村:人が怖いと言うより、その症状が出てしまって、その反応が怖いっていう方が強いかな。リアクションが怖いです。
 
西尾:それは、そのうち、どっちでもいいやと思えるようになると思う。自分は自分だって思えるようになったときに、克服できるようになるんじゃないかな。
 
河村:最近は、すごく図太く発言してます。わりと荒療治で治そうとしているというか。それと自分の欲求が絡まって、不安を打ち消してるんじゃないかと考えます。
 
西尾:まあ不安でもいいと思うよ。それでも人とやり取りができるようになるよ。
(※産婆術……対話を通して無知を自覚し、理解を深めようとする行為を産婆の仕事に例えたソクラテスの問答法。)

PROFILEプロフィール

  • 西尾 浩二

    文学部哲学科 講師



    2003年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。2008年大谷大学任期制助教、その後非常勤講師、学習支援主任アドバイザーを経て、2019年大谷大学専任講師。
    西洋哲学、とくに古代ギリシャ哲学(ソクラテスやプラトン、アリストテレスなど)に関心を寄せて研究してきた。現在の研究テーマは「幸福(よい人生)」。制約ある境遇を生きる人間にとって、幸福とは何か、幸福の条件とは、運や性格や徳との関係は……。古代ギリシャの哲学者たちが残した思索や近現代の議論を手がかりに、幸福という古くて新しい問題の本質に迫りたい。また、明治期に西洋哲学がどのように受容されたかについても研究している。



  • 進路を考えたとき歴史学と心理学とで迷っていたが、歴史の事象に関わった人物が何を考えたのかについて考えることが好きなんだと気づき、哲学科を志望した。大谷大学については、オープンキャンパスに何度か参加してみて、「やっぱりここが自分には合う」と確信し、受験することにした。
    自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている。授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程はとても面白い。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢で成長し続ける。