自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている河村君は、授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手だそうです。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程は、とても面白いと言います。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢は、今後の研究において必ず生きてきます。「いつでも話を聞く」という教員に支えられ、河村君の成長は続きます。

07 心に響いた哲学のメッセージ

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河村:先生はなんで哲学を始められたんですか?
 
西尾:僕が初めて哲学書を手に取ったのは、浪人時代なんです。予備校に行かずに図書館で勉強してたんやけど、ふと手に取ったのが、サルトルの『存在と無』っていう本から抜粋したものだったんです。そこに「人間は徹底的に自由である」って書いてあった。その頃の僕は、家のこととか対人関係で悩んでたから、どんな状況にあっても人間の心は自由だっていうメッセージが心に響いたんだよね。あれがなかったら哲学に来てなかったかもしれない。
 
河村:もともと何を目指して大学に行こうと思ってたんですか?
 
西尾:僕はすごく迷ったけど、文学が好きだったんだよね。小説や詩を書いたりしてたから、文学部に入った。なんで哲学を選んだかについては、自分でも今となってはよくわからないんだけど、図書館で勉強してて哲学の本を手に取るっていう段階で、何かあるんですよ。そっちの方向に興味があるっていうのが。それで哲学コースに入った。
 
河村:今になってその決断って、有意義だったと思いますか?
西尾:難しい質問するね(笑)。こうやって哲学の教員として学生さんと対話してるのは、やりがいもあるし、楽しいと思うんですよ。そう思うと、哲学を学びだした出発点は間違ってなかったんじゃないかなと思います。もちろん別の方向に行ってたら別の人生があるし、そっちの人生も良かったかもしれないけど、人生は比較することはできないからね。
 
しかも哲学は、何でも研究の対象になる。人の心も、神が存在するかっていうのも哲学だし、宗教についても歴史についても、何でもできるんですよ。だから興味の赴くままにいろんな本を読んでいったらいいのかなと思います。哲学に入って後悔はしてないですね。
河村:僕、論文を書くときには、新しいことを書くことが必要だと思うんですけど、哲学をやっていてよく思うのは、「やられたな」ってことなんです。僕が考えていたことをすでに考えられている方が何人もいるんで。
 
西尾:ああ。それは嫌?
 
河村:嫌というか、もうちょっと早く生まれたかったなとすごく思いますね。神についての議論も何千年とされているんで、その論争に入りたかったなって。
 
西尾:今からでも入ればいいじゃない。昔の人が考えていたことと、今の河村君が思うことは別だし、考え直すのは必要なことだし。
 
河村:新しいことを考えて前に出たいっていうのもあって。目立ちたがりなんですね。
 
西尾:そのためには、最新の研究を読んで知識を得ることが必要だね。今はどういうテーマについてどういう理論が出されているのかっていうことを勉強していくといいね。それについてあなたがどう思うか。しっかりと考察すれば十分最新の研究になるよ。

PROFILEプロフィール

  • 西尾 浩二

    文学部哲学科 講師



    2003年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。2008年大谷大学任期制助教、その後非常勤講師、学習支援主任アドバイザーを経て、2019年大谷大学専任講師。
    西洋哲学、とくに古代ギリシャ哲学(ソクラテスやプラトン、アリストテレスなど)に関心を寄せて研究してきた。現在の研究テーマは「幸福(よい人生)」。制約ある境遇を生きる人間にとって、幸福とは何か、幸福の条件とは、運や性格や徳との関係は……。古代ギリシャの哲学者たちが残した思索や近現代の議論を手がかりに、幸福という古くて新しい問題の本質に迫りたい。また、明治期に西洋哲学がどのように受容されたかについても研究している。



  • 進路を考えたとき歴史学と心理学とで迷っていたが、歴史の事象に関わった人物が何を考えたのかについて考えることが好きなんだと気づき、哲学科を志望した。大谷大学については、オープンキャンパスに何度か参加してみて、「やっぱりここが自分には合う」と確信し、受験することにした。
    自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている。授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程はとても面白い。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢で成長し続ける。