自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている河村君は、授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手だそうです。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程は、とても面白いと言います。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢は、今後の研究において必ず生きてきます。「いつでも話を聞く」という教員に支えられ、河村君の成長は続きます。

04 他者を傷つけないなら何でもできる「大人のルール」

OTANI'S VIEW

更新日:
西尾:面白かった授業はありますか?
 
河村:「人間学」と「哲学科演習」です。「現代朝鮮事情」も面白いなと思いますし、哲学系なら「公共哲学」がすごく楽しかったです。僕は多分、功利主義者なんですけど、功利主義について学んだときに、僕の今までの生き方に当てはまってる感じがして、それに功利主義っていう名前を与えてくれたことによって、また考えることが増えたなって思いました。
 
僕自身、この前体験したことなんですけど、空き缶が落ちてて、拾わなきゃって思ったんです。脇坂先生は、自分がやった良いことが、社会的にも良いことになるのではないか、そうなるのが功利主義と自由主義の「大人のルール」だって言われてて。でも、ある程度の倫理観を備えた人でないと、それは難しいってジョン・スチュアート・ミルも言ってて。
僕がある程度の倫理観を備えているかっていうのはわからないですけど、空き缶を「拾わなきゃ」っていう義務感みたいなのが、「大人のルール」を使っていい人間ってことなのかなって、空き缶を拾って帰る道すがら、考えていました。
 
西尾:それは、他者危害原理のことかな?何でも自由にやっていいけど、条件がある。それは他者を傷つけないことだ、っていう話?
 
河村:そうです。それが「大人のルール」だって。わかりやすくて面白かったです。哲学を面白いと思うのは、僕の中ではマイケル・サンデルの影響が大きいんです。小学生の時に『白熱教室』を見てて。
 
西尾:ええ!?小学生で見てたの!?
河村:面白そうに議論してるなと思って。わからないことに対して議論してて、しかも真面目に答えていて、楽しいなって思って。
 
西尾:ああ、それで「トロッコ問題(※)」も知ってたんだね。
 
河村:他にも『英雄たちの選択』っていう、過去の英雄が分岐点に立った時に、どういう決断を下すのが合理的かって議論をする番組があるんですけど、それも僕のルーツにあるのかな。脳科学者とかいろんな知見を持った人が、実際とは違う判断を下していくんですよ。そのどれもが僕には正しいように感じたんです。議論をしたいっていうルーツは、その辺にあるのかな。白黒つけたいけど、つけられないのも仕方がないっていうのも、そこで学んだような気がします。
 
西尾:歴史学ではなくて、決断の背景にあるものに惹かれたんだね。歴史だけど、哲学みたいなね。谷大にはものすごくいっぱい授業があるから、いろんな授業を取ったらいいと思いますよ。
(※トロッコ問題……走っているトロッコの先には5人の人がいて、そのままではひかれて死んでしまう。あなたが目の前のレバーを引けば、トロッコの行き先は1人だけがいる線路に切り替わる。あなたはレバーを引くべきか、というような倫理学上の思考実験。)

PROFILEプロフィール

  • 西尾 浩二

    文学部哲学科 講師



    2003年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。2008年大谷大学任期制助教、その後非常勤講師、学習支援主任アドバイザーを経て、2019年大谷大学専任講師。
    西洋哲学、とくに古代ギリシャ哲学(ソクラテスやプラトン、アリストテレスなど)に関心を寄せて研究してきた。現在の研究テーマは「幸福(よい人生)」。制約ある境遇を生きる人間にとって、幸福とは何か、幸福の条件とは、運や性格や徳との関係は……。古代ギリシャの哲学者たちが残した思索や近現代の議論を手がかりに、幸福という古くて新しい問題の本質に迫りたい。また、明治期に西洋哲学がどのように受容されたかについても研究している。



  • 進路を考えたとき歴史学と心理学とで迷っていたが、歴史の事象に関わった人物が何を考えたのかについて考えることが好きなんだと気づき、哲学科を志望した。大谷大学については、オープンキャンパスに何度か参加してみて、「やっぱりここが自分には合う」と確信し、受験することにした。
    自分の意見を、的確な言葉にして人に伝えるという作業を日ごろから意識して行っている。授業後も気軽に友達と意見を交わしているものの、実は人と接するのが苦手。それでも好奇心が勝って、探究を深めていける大学の学びの過程はとても面白い。興味を持ったことのみならず、苦手なことに対してもきちんと向き合い、「なぜ」を問う姿勢で成長し続ける。