文学部仏教学科を2020年度に卒業された鷲尾諒さんに、在学中に学んだこと等について語っていただきました。
※このページに掲載されている内容は、取材当時(2024年11月)のものです。

大谷大学を卒業後、IT系企業に就職し、現在はVRゴーグル向けのアプリケーション開発業務に従事しています。ITを専門に学んできたわけではないので日々さまざまな困難に直面しますが、大学での学びが根底にあることで、安易に断念せず、粘り強く取り組み、前進していくことができています。そのおかげもあり、最近ではプロジェクトチームを任されるようになるなど、業務の幅も広くなってきました。大学で仏教学や真宗学などを通じて「苦(思い通りにならないこと)の付き合い方」を学んだことが、今の私にとって大きな支えとなっています。

大谷大学は「人間」について知り、考える機会が多く開かれている場です。そこで得られる学びは、卒業後にどのような人生・キャリアを歩むとしても、道標として働き続けるものだと思います。皆さんも、大谷大学で自分の灯となるような学びに出遇ってください。

大学で「苦」との向き合い方を学んだ

私が大谷大学で学んだことの中で現在に一番生きていると思っているのは、「苦(思い通りにならないこと)に対する理解と向き合い方」です。特に仏教学で「苦の原因は執着や囚われである」「人間の人生の一切は苦である」という教えを学んだことは、苦に対する考え方が大きく変わるきっかけとなりました。

私はそれまでは、自分の人生を周りに言われるままに流されて決めてきた人間でした。そのほうが楽だと思っていたのです。しかし、どの道を行っても結局苦があることが分かったとき、せめて自分が本当に歩みたい道で苦を味わっていきたいと考えました。現在、こうして自分なりにキャリアを選択し、歩めているのはこのような学びがあったからに違いありません。

また大学では仏教学以外にも、真宗学・宗教学・心理学・哲学を学びました。これらはその一つひとつが"人間"や"苦"について考え続けてきた学問です。それぞれ時代や地域、アプローチの手法などは異なりますが、これらを横断的に学んでいると、次第に人間と苦の関係性を俯瞰できるようになってくるのです。例えば、人間は常に苦と共にあって、それは切っても切れない関係なのだということや、古今東西の皆が苦と共にどう生きていくかということに悩み、解決策を模索して続けてきているということなどです。そういったことを知ると、苦しんでいるのは自分一人ではない、ということが分かりとても勇気づけられたと同時に、自分が今後直面する苦もどこかにきっと対処法があるだろうという希望も持てるようになりました。

おかげさまで、もはや現在の私にとって苦はそこまで怖いものではありません。私の人生を「航海」に例えるなら、苦は「波」だと思います。そして、大谷大学での学び、特に仏教は「航海図」です。それまで「波」が怖くて動き出すことができなかった私は、「航海図」に身を任せることで、ようやく安心して出航できるようになりました。きっとこの「航海図」はこれから私がどこに向かうとしても私の助けになるだろうと確信しています。

「苦」と向き合い掴んだソフトウェア開発の仕事

大学での学びが卒業後に生きたエピソードとして、私が念願のソフトウェア開発の仕事に従事できるようになった経緯を紹介します。

私は大学卒業後、大阪のIT企業に就職しました。これは「ソフトウェアを開発して人の役に立ちたい」という思いから選んだ進路でした。しかし、入社当初に配属された部署は”保守・サポート”の部署で、私の主な業務は「壊れた機器の交換・配達」でした。自分の思いとはかけ離れた内容の業務で、開発業務へのキャリアパスも見えず、私はひどくがっかりし、入社数か月で転職を考えました。しかし、結果として私はこの会社で働き続けることを選択し、数年後に開発部署への異動が決まり、自分の思いを一つ叶えることができたのです。

この時の選択に、大学で学んだ「苦との向き合い方」が大きく影響しています。「苦」には必ず原因がある、という仏教の教えを学んでいた私は、自分がソフトウェア開発の仕事に就けない原因は何なのかを自省しました。その結果、一番の原因は「会社」ではなく「自分のスキルが足りていないから」という結論に至り、ならば、「今の環境でスキルを磨く」という選択肢もあるのではないか、と考えたのです。その後、通常業務の傍らでソフトウェア開発の勉強を続け、独自に社内システムの改善・効率化の提案や開発を行っていきました。すると、こうした取り組みが段々と社内で認知・評価されていき、入社3年目に念願だった開発部署に配属されることになりました。現在はVRゴーグルに搭載するアプリケーションの企画・開発に携わっています。

さて、上記のエピソードは「たまたま思い通りになった」事例で、思い通りにならないことは全く尽きません。実際、私が新たに配属された開発部署では、以前に比べて求められる成果や責任の幅が広がり、益々思い通りにならないことが増えています。
そのような日々ではありますが、私は大学で学んだ「苦との向き合い方」を支えにして、一つ一つの課題に対して慌てず粘り強く取り組むことを続けています。これからもこの基本を大切にしながら学び続け、「ソフトウェアを開発して人の役に立ちたい」という思いの実現に向かって進んでいきたいと思っています。

自分の灯となるような学びや経験に出遇ってほしい

後輩の皆さんは、まずは大学生活を存分に楽しんでください。授業だけでなく、学生生活全体を通して自分の興味を広げ、追求していってください。自分が幸せだと思うことや好きだと思うことを多く見つけることができれば、それが人生を豊かにすることにつながると思います。
 
そしてぜひ、大谷大学ならではの学びも大切にしてください。特に、大谷大学は「どうしようもできない不運や困難が起きた時の向き合い方」について学ぶことのできる貴重な場でもあります。
人間は必ず、人生のどこかで「どうやっても思い通りにならない不運や困難」に直面します。もし大学でそれに対する向き合い方に関する答えやヒントを得られたのであれば、あなたが卒業後にどのような人生・キャリアを歩むとしても、必ずあなたを支えてくれると思います。
 
皆さんが大谷大学の学生生活で自分の灯となるような学びや経験に出遇い、力強く人生を歩まれていくことを願います。

PROFILEプロフィール

  • 鷲尾 諒(わしお りょう)

    文学部仏教学科 2020年度卒業

    大学卒業後、IT系企業に就職し、現在はVRゴーグル向けのアプリケーションの開発などに携わっている。