自らの執筆に生かすために、これまで手を出して来なかったジャンルの小説も読むようになった西本君は、リアリズムを基本にして書いていくことの難しさを痛感しています。自分が考えるストーリーに合う形で病気を作り出したり、盛り上がる場面を書きたいから登場人物を死なせるという安易な書き方は卒業して、書き手として一歩踏み出してほしいという先生からのアドバイスを受け、卒業制作に向けて気を引き締めています。

06 持続的に書き続けるためには

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國中:創作を日常の中にどういう風に組み入れていますか?書く時間とか構想を練る時間を、意識的に入れている?
 
西本:週末にやることが多いですね。平日は授業に集中して、気になったことがあればメモ書きにでもしておいて、土日で何かできないかって考えたりします。土日はバイトをしてるので、家に帰ってから何時間かまとめて書いたりっていうのが大半です。
 
國中:じゃあ、あんまりたくさんの作品を書いたりはしてない?
 
西本:はい、1つの作品に集中する感じです。「このメモはこの作品には使えないから取っておこう」っていうのはありますけど、基本的には1つの作品に使えるように、メモったものは入れていくようにしています。
國中:どのくらいのペースで1つの作品を書いてますか?
 
西本:長さにもよりますけど、大学から課された課題の時は、2~3週間くらいです。外部に応募するときは、2万~3万字で、大体半年くらいで書けるようにしています。
 
國中:外部で入賞してプロデビューを目指す場合は、もっと長いですよね?
 
西本:はい。大体10万字前後じゃないと、最低ラインには入れないですね。
 
國中:ウチの大学からも長編でデビューした人がいるけど、彼がその小説を書いたのは卒業した後らしいんですよね。長編となると、大学の勉強と一緒にやるのはなかなか厳しいよね。将来の方針としては?
 
西本:出版社系に入りたいんですけど、大手は通ったらラッキーだなって思うようにして、中小企業の出版社を狙おうかなと思っています。あとは広告系の会社にも目をつけてて、そこで自分の文章力を何かしらの形で生かせればいいなと思っています。
國中:マスコミですね。新聞社とか通信社とか、いわゆる文芸じゃないジャンルのところは?
 
西本:そういうところも候補には入ってるんですけど、イマイチどこが良くてどこが良くないかっていうのがわからないので、模索中ですね。
 
國中:マスコミもいろいろありますからね。特に新聞記者出身の作家は多いですよね。新聞記事は余計な修飾はできないし、書きたいことを簡潔に伝える訓練は、作家になるうえでかなり効果的みたいです。司馬遼太郎なんていかにも新聞記者をやってた人の文体ですよ。若いうちにデビューしたいっていう人がいるけど、センスが良くて文章もうまくてデビューできちゃう人はたしかにラッキーだけど、続けていくことを考えると、人生経験とか社会経験とかを積んだ上で作家専業に移った方が、将来的に長く書き続けていけると思いますよ。

PROFILEプロフィール

  • 國中 治

    文学部 文学科 教授



    早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程(日本近代文学専攻)単位取得満期退学。韓国大田広域市大田実業専門大学専任講師(日本語および日本事情を担当)、神戸松蔭女子学院大学文学部総合文芸学科教授などを経て、現職。
    昭和前期を代表する詩誌「四季」の文学者たち、特に三好達治と立原道造と杉山平一を中心に研究している。この3人は資質も志向も異なるが、詩形の追求と小説の実践、それらを補強する理論の構築に取り組んだ点では共通する。時代と社会にきちんと対峙しえなかったとして、戦後、「四季」は厳しい批判にさらされる。だが、日本の伝統美と西欧の知性を融合させた「四季」の抒情は奥が深くて目が離せない。



  • 高校の先生の勧めで大谷大学を知り、創作できる場所もあるということに惹かれ、入学。1年生の時の対談以降、自らの執筆に生かすために、これまで手を出して来なかったジャンルの小説も読むようになった。
    入学当初からの目標だった卒業制作は、教員による事前審査に合格。リアリズムを基本にして書いていくことの難しさを痛感しながら、「書き手として一歩踏み出してほしい」という先生からのアドバイスを受け、卒業制作に向けて気を引き締めている。
    また、将来は出版社を中心に、自分の文章力が活かせる職業を希望している。