他大学を辞めて哲学科に入り直してきた黒川さんは、先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることをとても喜んでいます。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じています。関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしています。

06 人に関心がなくても、人の面白さはわかる

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黒川:脇坂先生は、人を嫌いにならないっていう話をされるじゃないですか。
 
脇坂:そうそう。人に興味がないから、あまり嫌いにもならないっていうか。
 
黒川:前に、学生だったけど友達になった人がいるって仰ってたんですけど、先生にとって友達って何ですか?
 
脇坂:私、友達めっちゃ少ないんです。でも、その人は、他人からどう見られるかとか、他人がどうかとかは全然関係なく、「私はこうだ」っていうのを持ってる子だったの。他人を全く気にしないってわけじゃなくて、気にはしてたんだけど、「それでも私は私」っていうのをすごくはっきり持ってたのね。だから生き方が面白くて、私の方が教えられることが多かった。それで卒業した後も、私にはめずらしく会うことがありました。
でも私、それとは別に、この大学に来て初めて、人が成長するんだってことが分かったの。学生さんとの距離が近いから、授業でもしょっちゅう「なぜそう考えてるの?」って聞くでしょ。その答えを聞くと、必ず考えてることに理由や筋道があってすごく面白い。だから、さすがに人に関心のない私でも、いろんなことを考えてる人を大切にしたいと思うかな(笑)。人をたくさん見るようになったのは、この大学に来て良かったなって思ってることです。
 
黒川:他の人の発言がわからなくても、先生が言い直してくださると「そういうことか」って思うことが結構あるんですけど、知識が多いと人の真意ってわかるんですか?
 
脇坂:知識の引き出しを持ってると、「この人が言ってることは、あの哲学者が言ってることに近いんやろか」っていう、話を聞きながら引き出しを検索してる状態になるんです。でもそれが大事っていうより、相手をよく見て、話を必死になって聞くと、言葉のトーンとか言いよどむところに、その人の考えが出てるのがわかるんですよ。それを一生懸命聞いて、できるだけその人の言葉を使いながら、こういうことかなって言い直していく。そうすると多分、他の人にもわかる言葉になっていく。学生さんの話を聞きながらその作業をやってると、90分の授業が終わると結構くたびれてボロボロです(笑)。でもわかりやすいって言ってもらえると嬉しいです。
 
黒川:研究するなかで、影響を受けた考え方ってありますか?
 
脇坂:例えば、アルコール依存症の人たちがお酒を飲まなくなっていくきっかけの1つって、自分が本当にアル中なんだってわかる瞬間なんです。アル中の人たちって、自分が本当にアル中だって思ってないんですよ。ちょっと酒を飲み過ぎてるだけだって思ってるんです。でもある時、「底つき」って言うんだけど、「自分はやっぱりただのアル中なんや」ってわかる瞬間があって。自分が何者かわかることを「自覚」って言いますよね。自分が何かとんでもないことをしてしまって、はっと我に返って「こんなことをするのが私だったのか」とか「やってしまったこの私」というのに驚くことがあるんですけど、それが自覚の瞬間。
 
それと同時に、そういうところに自分が置かれてしまった恐ろしい運みたいなのもあって。その2つが重なってるってことは忘れたくないなって思ってて。だから人を見るときには、必ずその両面で見れるようにはなりたいなって思ってます。

PROFILEプロフィール

  • 脇坂 真弥

    文学部 哲学科 准教授



    1964年広島県生まれ。1996年京都大学大学院文学研究科博士後期課程宗教学専攻満期退学。2000年博士(文学)。2003年より東京理科大学理工学部教養教員を経て、2014年より大谷大学文学部准教授。
    倫理は善悪や正不正に関わる規範の問題である。こうした規範は単なる主観的なものではなく、そこには何らかの普遍的基準がある。この基準を知り、それに自ら従う自律(自由)、逆にそこから逸れてしまうこと(悪)などの問題を、カントやヴェイユの宗教哲学から考えている。



  • 他大学を辞めて、オープンキャンパスで知った大谷大学が自分に合っていると思い、入り直した。先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることが今の喜び。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じている。
    関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしている。