他大学を辞めて哲学科に入り直してきた黒川さんは、先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることをとても喜んでいます。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じています。関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしています。

05 本を読むことは目的ではない

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脇坂:将来については考えてる?
 
黒川:演劇は続けたいなと思ってて。でもそれで食べていくのは無理だってわかってるので、趣味で続けたくて。大学に入って気づいたんですけど、手紙とか本とかの紙が好きなので、就職という意味では出版関係かな。
脇坂:なんでそういうことに気づいたの?
 
黒川:多分時間ができたからっていうのもあると思います。友達に手紙を書いたりできるし。レポートを書いて先生に読んでいただくっていうのも、すごくありがたいなって。レポートを出すっていうのは嬉しいことだなって思って。表現っていうところでつながってるのかもしれないです。高校の時は台本とかも書いてたんですけど、最近は案が出ないので、編集の方で関わりたいなって思ってます。哲学科に入っていろいろ考えることが多くて、創作の余裕がないのかもしれないです。
 
脇坂:いろんなことを蓄積する時期ってあるからね。「文藝塾(※)」も行ってるよね。編集の方で関わってるの?
 
黒川:はい。学生主体で『萌芽』っていう機関誌を出してて、私は校正とかやってます。
脇坂:読んで面白かった本とかありますか?
 
黒川:先生に教えていただいた『ハーモニー』です。普段読むのは恋愛小説のようなものばかりで、社会問題っぽいのとか、異次元ものってあんまり読んだことなかったんですけど、面白かったです。
 
脇坂:さっきの功利主義の話で言えば、『ゲド戦記』を書いた人の短編に「オメラスから歩み去る人々」っていうのがあるんだけど、面白いですよ。簡単に読めるので、ぜひ読んでみてください。
 
黒川:本を読みたいなとは思ってはいて。でも全然読めてないんです。先生は本がお好きなんですよね。どうやったら本が読めますか?
 
脇坂:読みたい本を探した方がいい。読みたい本を探すと、そこから読めるようになってくる。本をたくさん読むことが目的だと修行みたいになっちゃう。修行したいわけじゃないでしょ(笑)?だとしたら、本屋さんに行って、いろんな本を眺めてみるとか。気になる本があったら手に取って。そうやって、少しでもいいから自分が本当に読みたい本と出会ったほうがいい。
 
黒川:手に取ったら読めるんですけど、そこまでがなかなかできなくて。忙しくて本屋に寄れないとか。学校帰りとかに読めばいいのに、台本を読んじゃったり。
 
脇坂:じゃあ、本を読むより他にやりたいことがあるのかもよ。もしかしたら、実はあんまり本を読みたいと思ってないのかもしれない。演劇の方が面白いとかね。
 
黒川:そうかもしれないです。
(※文藝塾……「書く力」を養うための講義と演習を行う場。文藝を通した交流サロンとしてさまざまな学生が集い、授業では小説やエッセイなどの文章を執筆し、書き手としての力、客観的に読む力を同時に身につけていく。)

PROFILEプロフィール

  • 脇坂 真弥

    文学部 哲学科 准教授



    1964年広島県生まれ。1996年京都大学大学院文学研究科博士後期課程宗教学専攻満期退学。2000年博士(文学)。2003年より東京理科大学理工学部教養教員を経て、2014年より大谷大学文学部准教授。
    倫理は善悪や正不正に関わる規範の問題である。こうした規範は単なる主観的なものではなく、そこには何らかの普遍的基準がある。この基準を知り、それに自ら従う自律(自由)、逆にそこから逸れてしまうこと(悪)などの問題を、カントやヴェイユの宗教哲学から考えている。



  • 他大学を辞めて、オープンキャンパスで知った大谷大学が自分に合っていると思い、入り直した。先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることが今の喜び。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じている。
    関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしている。