他大学を辞めて哲学科に入り直してきた黒川さんは、先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることをとても喜んでいます。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じています。関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしています。

03 学問が、実生活とつながっていると実感する

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脇坂:大学での勉強は、どんなところが面白いと感じますか?
 
黒川:哲学が楽しいのはもちろんなんですけど、全然違う授業でもそれぞれがつながってるなって思うことや、自分の実生活とつながってるなって思うことがあって、そういう時がすごく楽しいです。大学で、初めて勉強が楽しいって思いました。
 
釆睪先生の、「自分ももしかしたら人殺しの立場になるかもしれない。例えば傘を持ってて、人をこけさせてしまって、その結果、その人が死ぬかもしれない。そうなってないのは運がいいだけで、実際起こりえるってことを忘れない方がいいんじゃないか」っていう話と、脇坂先生が「公共哲学」の授業でおっしゃった、「普通の状況だったら普通の家庭を築いていたようなドイツ人が、第二次世界大戦でたくさんのユダヤ人を虐殺した」っていう話は、本質が同じだなって思いました。
 
脇坂:そうなんです。今、倫理の世界ですごく注目されてる「道徳的な運」って言われている話がそうなんですね。バーナード・ウィリアムズっていう人が本の中で書いてることで、たくさんのユダヤ人を殺してしまったことはもちろん裁かれなければならない罪なんだけど、でもその人がそういうことをする・しないっていうのは、根本的に運の問題が関わっているんだって。今、自己責任論ってあるでしょ。もちろん裁かれないといけない面もあるけど、本当に何もかも自己責任と言えるのかっていう問題があってね。
 
黒川:それにハッとさせられて。もうちょっと「自分もするかもしれない」っていう意識を持ったうえで生活した方がいいんじゃないかと思いました。「人間学」の授業では、釆睪先生がいろんな話をしてくださるんですけど、音楽を聴くっていう行為は、その音楽によってしんどいこととかを無視してるってことで逆にしんどいって。なるほどなって思いました。
脇坂:釆睪先生の授業って面白いよね。いろんなところに話が行くから、仏教の話をしているのになかなかお釈迦様が生まれないそうですが(笑)。
 
黒川:この夏、初めて一人旅に行ったんですけど、音楽を聴かないで行こうって自分で決めてて。聴かないことで見えてきたのが、自分のうるささなんです。過去のこととか、見る風景で思い出すこととか、普段考えないようにしてたことをあれこれ考えちゃって、それを消すために普段は音楽を聴いてるんだなって、授業で聞いたことが体験としてつながったなって思いました。
 
脇坂:音楽を聴かないで、「私はこんなことを考えないようにしてたんだな」ってことを突き詰めた方が面白い?
 
黒川:時と場合によるかな……。あんまり考えすぎるのはしんどいので。それに、音楽を聴いて元気を貰っていることもあるな、とお話ししていて改めて気づきました。
 
脇坂:そっか。なんで一人旅を?
 
黒川:やったことのないことをやりたいなって思って。友達と一緒も好きなんですけど、1人でいることも同じくらい好きで。金沢、福井に行って、お金がないのでユースホステルに泊まって。東京の大学生とか、義足を作る専門学校に行ってる人とかと出会って、哲学の話もしました。1人で行ったからそういう出会いもあったんやなって思いました。

PROFILEプロフィール

  • 脇坂 真弥

    文学部 哲学科 准教授



    1964年広島県生まれ。1996年京都大学大学院文学研究科博士後期課程宗教学専攻満期退学。2000年博士(文学)。2003年より東京理科大学理工学部教養教員を経て、2014年より大谷大学文学部准教授。
    倫理は善悪や正不正に関わる規範の問題である。こうした規範は単なる主観的なものではなく、そこには何らかの普遍的基準がある。この基準を知り、それに自ら従う自律(自由)、逆にそこから逸れてしまうこと(悪)などの問題を、カントやヴェイユの宗教哲学から考えている。



  • 他大学を辞めて、オープンキャンパスで知った大谷大学が自分に合っていると思い、入り直した。先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることが今の喜び。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じている。
    関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしている。