他大学を辞めて哲学科に入り直してきた黒川さんは、先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることをとても喜んでいます。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じています。関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしています。

07 大事なことは、ちゃんと自分の中にしみこんでいく

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脇坂:演劇もやってて授業も楽しくて。充実してますね。
黒川:はい。大谷大学に来て良かったなって思います。本当に授業は学ぶこと多いなって思いますし、今はいろんなことに関心があるから、あれこれ手を出してて。東北にボランティアに行って心が動いて、こうしたいなって思うことがたくさんあるし、ノートテイク(※)をやってるので、手話も覚えたいなとか。ドイツに行きたいからドイツ語の勉強もしたいし、字を書くのが好きなんで、漢字検定や硬筆検定を受けたいなって思ってるんですけど、どれも中途半端で。「しなきゃ」とか「したい」っていうのがありすぎてできてないのかな。
 
脇坂:ちょっと焦ってる感じなんですか?
 
黒川:それもあるかもしれません。大学を1年やり直してる分、ちゃんとやらなきゃって。自分が学ぶ姿勢を持ってないと、得られるものとか考えられることの量や質が変わってくるので、意識してやらないとって思うから、焦ってるのかもしれないです。
脇坂:それ、頑張りすぎやと思う。もうちょっとリラックスしても良いと思うよ。学校を変わってきて、頑張り屋だから、あれもこれもってやろうとしてるけど、やりたいことはやってると思うよ。授業で真剣に考えてやり取りをする中で、自分の中で深まっていくものがあるでしょ。それができてれば十分。あれもやりたい、これもやりたいっていうのがあっても、やっぱり全部はできないんですよ。そして、できない自分を責めちゃうんです。でも後から考えると、一生懸命やってきた中に「やっぱりこれは私の道だったのね」っていうのが出てくるから、あんまり心配しないで。すごく苦しくなってない以上は、ちゃんとやれてるんだって思って、楽しいときは「楽しいな」って思ってるだけでいい。そうしてるうちに、自分の道が見えてくるかもしれない。東北のボランティアはどうでした?
 
黒川:今まで東日本大震災って遠い出来事だったんですけど、京都駅の美術館で見た藤の花の絵に圧倒されて。題名が「無数の輝く生命に捧ぐ」っていうんです。1つひとつの藤の花が、亡くなった人の数だって思いを込められて描いた絵で。数字だけだとピンとこなかったんですけど、絵で見ると胸に来るものがあって、これだけの方が犠牲になった震災があったんだなって。それで大学が募集してるボランティアに参加したんです。
 
被災地研修の時、津波の被害がすごかった地区で話を聞いたら、亡くなった方を探すためにダイビングの資格を取って、ご遺体だけでも会いたいっていう方がいて。自分は数さえもわからなかったのに、そうやって今でも会いたいって苦しんでるご家族がいて、復興って何かなって考えさせられました。その時は、ちょっとでも何かできたらなって思ったんですけど、今はもう自分のことでいっぱいいっぱいで、全然できてなくて。やっぱりいろんなことに手を出してる分、一過性になってしまってることが多いなって思いました。今こうやって話す機会をいただいて、改めてその当時のことを思い出したので、この4年間で学べるだけ学んでいきたいと思います。
 
脇坂:また頑張りすぎてる!一過性でいいんやで。一過性でいけないものは、無理に引き留めておかなくてもちゃんと自分の中にしみこんでいくから。過ぎていくものは過ぎていくけど、どこかに引っかかってるってこともあるし。多分、頑張りすぎ。
 
黒川:でも今しかないから……。
 
脇坂:今しかないなんて、そんなことない。おばちゃんにそんなこと言わんといて(笑)。努力して残そうとか思わなくていいと思うよ。人って、こし器みたいなもので、心配しなくても大事なことは残っていくから。
(※ノートテイク……身体に障がいのある学生に対し、授業の筆記通訳などをする有償ボランティア。)

PROFILEプロフィール

  • 脇坂 真弥

    文学部 哲学科 准教授



    1964年広島県生まれ。1996年京都大学大学院文学研究科博士後期課程宗教学専攻満期退学。2000年博士(文学)。2003年より東京理科大学理工学部教養教員を経て、2014年より大谷大学文学部准教授。
    倫理は善悪や正不正に関わる規範の問題である。こうした規範は単なる主観的なものではなく、そこには何らかの普遍的基準がある。この基準を知り、それに自ら従う自律(自由)、逆にそこから逸れてしまうこと(悪)などの問題を、カントやヴェイユの宗教哲学から考えている。



  • 他大学を辞めて、オープンキャンパスで知った大谷大学が自分に合っていると思い、入り直した。先生との距離が近い環境で念願だった哲学を学べていることが今の喜び。ゼミでの問いに頭を悩ませ、友人の発言に刺激を受け、考えを深める過程を楽しいと感じている。
    関心の赴くままに新しいことに挑戦しながら、自分を見つめる過程で見えてくるものと、頑張らなくても自分の中に残っていくものを大切にして、学びの4年間を丁寧に過ごしている。