現在、大谷大学で事務職員として活躍されている本学大学院修了生の三池さんに、大谷大学大学院での研究内容や魅力、学んだことを語っていただきました。

シェイクスピア劇の教育効果を研究

三浦:大学院に進学されましたが、学部の授業を受けるなかでもっとこういうところを勉強したいなって思ったことはありましたか?

三池:3年生のとき、シェイクスピア作品を“読む”ものだと思ってゼミに入ったのですが、ゼミのメンバーで役を決めて、ひたすら劇をしていました。最初は「なんでこんなふうに劇をする必要があるのだろう」と感じたのですが、あるときから「あの時のセリフの言い方良かったよ。よく伝わったわ」というやり取りが、仲間との間に生まれてくるようになったんです。自分の気持ちや経験を投影して、感情移入したり、共感したりできるセリフがシェイクスピア作品に多いことに気がつきました。
また、中学・高校の教員免許状の取得を目指していたので、海外の演劇教育に興味を持ちました。ゼミでの劇の経験を通して、言葉の影響力を教育と繋げて考えたいと思ったのが、進学の動機です。

三浦:大学院で研究したいテーマに繋がったんですね。大学院で改めて演劇を教育に取り入れるということをテーマにされて、どんな気づきがありましたか?

三池:子ども向けに書き換えられた作品を読んでいくなかで、1つの単語が、作品の中で大きな意味を持つことが分かりました。語源を辿り、言葉の意味を捉え直す作業が大変興味深かったです。私が対象とする中高生に合わせて、原文の書き換えも試みました。

三浦:作品の主題は書き換える過程で何か変わったりするのでしょうか?

三池:友情や恋愛、家族問題など、中高生が身近に感じやすい場面を選択して、書き換えを行いました。作品自体の主題を知ってもらうというよりかは、「自分がこの立場だったらどうするか」「なぜこの人はこの場面でこう行動したのか」と、自己投影や共感、他者理解に繋がることに目的を設定しました。生徒が自分なりの考えを導くためのワークシートや、友達の考えを知るためのグループワークなどを取り入れた、単元一つ分の指導計画書を作成しながらの作業でした。

三浦:AIがどんどん人間のやっていたこと、仕事を奪っていくなかで「じゃ自分たちは何ができるのか」ってことをすごく考えるんですけど、そのなかで「演劇教育」っていうのが今後1つの重要なキーワードになるんじゃないかなと思っていて。人間のやれることが少なくなってくるからこそ身体を使った体験って必要だと思うし、そのなかで創造性を発揮していくことが今後必要だと思います。
大谷大学の大学院の魅力はどんなところでしょうか?

三池:先生としっかり相談ができる環境です。私の場合、ゼミの時間は先生の研究室に行って、ほぼマンツーマンで研究への助言をもらっていました。その時間にコメントが欲しいときは、事前に作成途中の論文を読んでいただいたりして、次に生かせるようにご指導いただき、とても恵まれた環境でした。
また、ゼミ発表は他のゼミと合同でした。研究分野の異なる先生や大学院生、外国人留学研究生がいて、さまざまな目線で意見がもらえたので、とても良い刺激になりました。

学寮は毎日共に過ごす「成長の場」

二寮合同(自灯学寮[女子寮]/貫練学寮[男子寮])のレクリエーションの様子
二寮合同(自灯学寮[女子寮]/貫練学寮[男子寮])のレクリエーションの様子
※本人中央

三池:大谷大学に就職したいと思ったきっかけは、女子学寮「自灯学寮」での寮監という仕事の経験です。大谷大学の学寮は、第1学年の学生が1年間のみ入寮可能で、自分自身の生活のためだけではなく、大谷大学の理念である仏教精神に基づきながら、仲間たちと協力して寮の運営を日々行ってもらう場所です。

寮監は大学と連携しながら、住み込みで学寮生たちの生活指導やサポートを行います。全国から集まった、所属の学科も性格もさまざまな十数名の新入生が、よりよい寮生活のために意見を出し合ったり、歩み寄っていく姿を見ているなかで、そういった学生を支える立場に興味をもつようになりました。また、こういった成長の場がある大谷大学のことをより多くの人たちに知ってほしい、と思うようになりました。

三浦:きっかけは自灯学寮の寮監の仕事だということですが、そのなかで特にやりがいを感じられたことは何ですか?

三池:当時は、一緒に生活をしているので、職員というよりは「お姉さん」のようなかなり距離の近い存在だったと思います。一方で、寮監という立場で、指導や注意をしなければならない場面も多々あるなかで、上手く伝えられずに誤解を招いたり、ぶつかり合ったりすることもありました。寮生同士だけではなく、寮監も自分自身の在り方を問い、歩み寄っていくことが必要だったと思います。そうして1年間過ごして、みんなが笑顔で卒寮していくときや、卒寮する寂しさから一緒に泣いたときが、一番やりがいを感じた瞬間でした。

三浦:学生と深く関わっていたことが、職員になって今役立っていると感じられることはありますか?

三池:今、学生と関わる場面は、取材撮影に協力してもらうときが多いのですが、取材では聞かないこともたくさん話すようにしています。他愛もない会話をしたり「普段はどういう子なのかな」と考えたり。そういった時間に感じた雰囲気を、その学生の原稿や写真に反映したいと思っています。なるべく近い距離感で接するように心掛けられているのは、寮監の仕事のおかげだと思います。
また、教員免許状の取得を目指していたときは「教えなきゃいけない」「何かを伝えなきゃいけない」という気持ちが強かったのですが、寮監の仕事を通して、一方的に何かを伝えるだけじゃなく、引き出して一緒に共有できるものを作ることの大切さに気づけたと思います。

立ち止まり「言葉」を深く考える

三浦:大学院で研究されていたことが今の仕事に繋がっていることはありますか?

三池:大学の広報誌の制作をメインの業務として担当しています。企画から取材調整、校正など長期間の進行を担い、責任の大きな仕事ですが、大谷大学をさまざまな方法で表現できることにやりがいを感じていて、その中でも「言葉」の選択に力を入れるようにしています。大学院のときに論文を英語で書いたのですが、自分が伝えたいことを文章にするのにかなり苦戦しました。そのおかげで、目の前にある「言葉」や、自分が伝えたい「言葉」について、一度立ち止まり深く考えられるようになったと思います。

三浦:事務職員として、大学で働くことの面白さっていうのは何でしょうか?

三池:中学校や高校は生徒を育てる場所というイメージを持っていますが、大学は学生が自ら育っていく場所だと感じていて、職員はさまざまな背景を持った学生をサポートします。業務内容の異なる部署や職員の方々が、実践しているのを見るのは勉強になりますし、私は「大谷大学ではこんなことが出来るよ」とそれらを伝える立場です。さまざまな角度から学生をサポートできることが大学で働くことの面白さだと思います。

いま日常をどう生きるのか

有志で参加する被災地でのボランティア活動
有志で参加する被災地でのボランティア活動

三浦:学生時代にいろいろな経験をされているそうですが、震災の被災地でのボランティアは、TAT※で参加されたのですか?

三池:そうです。東日本大震災や熊本地震の被災地に行かせていただきました。震災から時間が経っても地震で倒壊したままの家や、津波が来た跡が建物のどれぐらいの高さまで染みているとか、行かないと分からない景色があります。また、そういった場所に立つと、テレビや写真だけでは知ることのなかったであろう、独特の空気感も感じました。
実際に被災された方と話すことも貴重な経験で、自分の日常が当たり前ではないということを強く感じることができた経験でした。

三浦:その体験を踏まえて職員として何か取り組んでみたいこととかありますか。

三池:今はコロナ禍でボランティアはありませんが、行けるようになったら、職員として学生たちと一緒に行って、感じたことや考えたことを共有したいです。そして、学生が何を思ったかを広く発信し続けることができればいいなと思っています。

三浦:ボランティアに行くのって怖くて躊躇してしまう。こう話して、もしかすると相手を傷つけるんじゃないかって、それがすごく怖くて。三池さんは対話することから逃げないっていうのが良いなって思って。
それってどこかで、大学院で研究されていた関心あったテーマと繋がっている。大学でされていたこととも繋がっているし、職員になってから発信していくこととも繋がっているし。学部、大学院でやっておられたことが生かされてるんだなと思いました。

三池:私は、最初ボランティアをするっていうときに「何かしてあげないといけない」って気持ちが強くって始めたんですけど、被災地に足を運ぶごとに「自分には何もできない」と感じるようになりました。思い描く“助ける”を押し付けようとしていたのかなって。でも自分は「いま日常をどう生きるのか」っていうところに立ち返ることができるようになった気がしています。
大学院での研究で向きあった作品や言葉への共感ということには、「役になりきる」ことが必要だと考えています。その裏側には「この人はどういう景色が見えているか」と他者を想像することが不可欠だと感じていました。そう考えられるようになり、大学院で研究することができたのは、ボランティアの経験があったからかなと思います。

※TAT……東日本大震災の復興支援として、大谷大学教職員有志・学生によるボランティア活動(Tomoni Ayumi Tai/Transcending All Together)

PROFILEプロフィール

  • 三池 多笑美(Miike Taemi)

    大学院 修士課程 文学研究科 国際文化専攻

    大谷大学文学部国際文化学科卒業(2014年3月)
    大谷大学大学院修士課程文学研究科国際文化専攻修了(2016年3月)
    大谷大学自灯学寮寮監(2016年4月~2018年3月)
    大谷大学入職(事務職員/2018年~現在)

  • インタビュアー/三浦 誉史加 准教授

    大学院 人文学研究科 国際文化専攻