現在、北海道の小樽市総合博物館で学芸員として活躍されている本学大学院修了生の三木さんに、大谷大学大学院での研究内容や魅力、学んだことを語っていただきました。

学部の研究を発展させたいと思い大学院へ

松浦:三木さんは大谷大学歴史学科の卒業生でもありますが、大谷大学への進学のきっかけについて教えてください。

三木:小さい頃から大学に遊びに連れてきてもらい、この大学の様々な面での環境の良さを知っていたことも大きいのですが、一番大きなきっかけは大谷大学の卒業生である父親に「大谷大学はどうだ」と勧められたことです。元々アイヌの文化等について興味をもっていて、それに関する事柄で勉強ができる大学を受けたり、探したりしていました。本を読むことや物事を考えたりするのが好きなので、文学科なども考えたのですが、資料を読んだりするなかで、直接アイヌに関係がなくても、回り道でも色々な時代の歴史を学べたらいいなということで、歴史学科に行きました。

松浦:そこから大学院への進学を目指したきっかけは何ですか。

三木:学部の東洋史のゼミでは、13世紀から17世紀にかけて、現在の北海道に居住していたアイヌが、どのようにその勢力を保ったか、どのような物・手段を通して、海を挟んだ日本・中華王朝などと交流していたのかという研究をしていました。そこから研究を発展させつつ視点を移して、海禁政策をとっていた中華王朝と日本・アイヌ・諸外国の勢力が、どのように交流していたのかが気になり、大学院進学を決めました。

物事に対する考え方の選択肢を広げる

大学院在学中に史料調査のため北海道に訪れた三木さん
大学院在学中に史料調査のため北海道に訪れた三木さん

松浦:学部、大学院で学んできたことで、今生きていることはどんなことでしょうか。

三木:まず、大谷大学は仏教系の大学なので、その考えや教えに触れる機会が多いと思います。そして、時期にもよりますが、仏教は信仰・思想として東アジア、特に日本では大きな存在でした。仏教的な観点から、歴史的な物事や風習を見つめてみたり、あるいは歴史的にみて、仏教やその思想・教団がどのように機能してきたのか、という視点を得やすいのではないでしょうか。
趣味として歴史や日常のものごとを見ていく中で、仏教的な観点を通すことで見え方がかわってくるというのは間違いなくあると思います。
学部では、東洋史のゼミに入ったことで、中国の各時代の歴史や文献に触れる機会がふえました。それによって、日本や他の国々・地域がそれぞれに影響を及ぼし合う相関的な関係性を有していることが、腑に落ちたというか、再認識しました。これは現在も勉強・研究をしている上でも大きな気づきの一つだと思います。
大学院でも研究を続けたことで、更に多くの文献を見る時間や、先生方や後輩などと話し、考える時間を得ることが出来ました。それらの時間は、研究だけではなく、自分の生き方やものの考え方や、視野が広がる経験だったと思います。

松浦:大学院では、どのように過ごしておられましたか。どんなところが良かったでしょうか。

三木:大学院では朝一番に来て、地下書庫にこもったり調べ物をしたりして、気付けば夜ということが多かったです。講義や指導を受けつつ、自分の好きなように時間を使えるのは特権だと思います。ある程度、何も考えずに自分のペースで研究に打ち込めるのは、良いことでした。学部ではどうしても、基礎科目や資格の授業などで時間が区切られることになります。物事を考えたまま夜になるような、一つの物事にじっくり取り組めるのが大学院の良いところだったように思います。
そして、大谷大学の強みの一つが図書館・博物館の豊富な文献数や資料数です。貴重な者も含めて様々な資料にすぐアクセスできることは素晴らしいことです。様々な歴史が息づいていて、かつ大谷大学をはじめとして各大学の文献にもすぐアクセスできる「京都」という特殊な街にあることもまた良いところだと思います。実際問題として、基礎となる文献や、参考になる文献の量の多寡は、研究のしやすさにもかなり影響します。

知識を生かしたくて学芸員の道へ

資料の解説を行う三木さん
資料の解説を行う三木さん

松浦:今は北海道小樽市の小樽市総合博物館で勤務されているとお聞きしていますが、現在の職場に就かれたきっかけを教えてください。

三木:まずは学部の時に学芸員の資格を取得していたことと、大谷大学博物館での研究員のアルバイト経験が大きいですね。そういった活動をしていくなかで自分の知識や研究を活かして博物館で学芸員という仕事に就けたらな、と思って今の仕事を選んだ感じです。

松浦:博物館では、今どんな業務をされていますか。

三木:研究をしつつ、学芸業務や、資料の保存や整理、解説・レファレンスをしています。それだけでなく、除雪や資料の出し入れなどの体力仕事もあります。

松浦:学部や大学院の学びが今の業務に生かされているとすれば、どのようなことでしょうか。

三木:当然、授業などを通して身についた漢文や古文書などの読解能力や、複数の文献を通してどのように立体的に歴史を組み立てるという力が少なからず生きていると思います。業務のなかでは江戸とか明治の頃の資料を読むことも少なからずあるのですが、漢文資料の一部が引用されている文献であったりだとか、漢文調のものが資料として多く、これまでの学びのおかげで楽に読めるのかなと思っています。

除雪作業を行う三木さん
除雪作業を行う三木さん

松浦:博物館でのアルバイトをしていた経験は、やっぱり生きていますか。

三木:本や掛軸・巻子・屏風など様々な資料や貴重物を扱うことに関しては、かなり博物館で教えてもらいました。調査などにも同行させてもらったので貴重な経験をさせてもらえました。それだけでなく、展示するときの視点や、展示する上での細かい気配り、展示までのプロセスも先生方や関係する方々から学べたので、自分の中では大きな宝です。学生時代に「博物館でこういう経験を積みました」って言うと、結構皆さん頼りにしてくださるので、そういった所でも博物館の経験が生きているのかなと思います。
博物館だけでなく、学生生活で気づいたことや学んだことなどに対して、様々な繋がりが出て厚みが出るような研究や生活を送っていけたら良いなと思っています。

ちょっと寄り道するぐらいの気持ちで

三木:大学の外に出て改めて思ったんですけど、京都という立地や、大谷大学は文献などの資料がとても多い場所で、すごく研究に恵まれた場所なんですよね。研究をすることにおいて一番優れている環境は、研究材料にすぐアクセスできる場所にある、大学や大学院などの研究機関なのだと思います。
あと、今の世の中、2年くらい遅れてもどうということはないので、ちょっと寄り道するぐらいの気持ちで大学院へ行くのもいいと思います。もちろん社会に出た後でも良いと思います。僕は、自分のやりたい、楽しいなと思った研究を続けていくための知識やスキルを学べるのが大学院だと思っていて、そういった意味では、研究者を目指さなくても大学院に進んだ方が色々面白いんじゃないかなと。分からないことが分かったりすると楽しいし面白いじゃないですか。やっぱり面白いのが一番大事ですよね。
そういった面白いもの、面白い文献や面白い経験がたくさん転がっているのが大学なんですよ。社会人を経て成熟してからや、年をとってからの学び直しで来るのも勿論良いと思うんですけど、大学生の時の熱量のまま継続してみることも人生の経験の内では大事だと思っています。

松浦:4年でだいたい学芸員の免許は取れますけども、大学院へ来たことでだいぶプラスになってますか。

三木:博物館の経験に関して言えば、これも繰り返しになりますけど、ある程度経験がありますっていう人の方が学芸員って有利だと思うんですよね。いきなり学部を出てそのまま新卒で入れる人は、そうはいないみたいなので。そういった意味では、学部の時につんだ実習だけではなく、大学院の研究や先生方との関わり、博物館業務の経験を積ませてもらえた事。これらは、今後の人生でも大きな糧となると思います。

PROFILEプロフィール

  • 三木 暁了

    大学院 修士課程 文学研究科 仏教文化専攻

    大谷大学文学部歴史学科卒業(2018年3月)
    大谷大学大学院修士課程文学研究科仏教文化専攻修了(2020年3月)
    小樽市総合博物館勤務(2020年4月~現在)

  • インタビュアー/松浦 典弘 教授

    大学院 人文学研究科 仏教文化専攻