大谷大学は2018年4月、文学部・社会学部・教育学部の3学部体制としてスタートします。3学部化を記念したシンポジウムの第1回が5月21日、「社会×地域—Be Real地域社会のこれからを考える—」をテーマに大谷大学講堂で開催されました。ジャーナリスト・福島敦子さんの基調講演に続き、朝日新聞出版「大学ランキング」元編集長・友澤和子のコーディネートのもと、福島さんと大谷大学教員でディスカッションを展開。少子高齢や人口減少が進む中、地域創生について熱く語り合いました。当日の模様を紙上採録でお届けします。

※本ページの情報はシンポジウム開催当時(2017年度)のものです。

基調講演:取材から見えてくる 現代社会と期待する若者像

現場で得られた リアルな実感が大事

 私はメディアの世界で、様々な企業や経営者を取材しています。企業は社会が求める新しい価値を生み出し、組織を活性化させるために、三つのテーマを重視していると感じます。

 テーマの一つは「現場を大事にする」こと。今はインターネットが普及し、あらゆる情報を入手できる高度な情報化社会です。ところが企業ではこれまで以上に現場に足を運び、お客様や取引先、工場などで「生の声」を聞き、そこから得られる情報に価値を見いだしています。自らの五感で得たリアルな実感をともなう情報を持つことこそが他社との差別化につながったり、付加価値を付けられたりして、企業の持続的な成長につながるからです。

 お客様の声から新しいビジネスが生まれた、某大手農機具メーカー企業の例をお話しします。新潟の米農家から「海外への販路開拓と高品質なお米のおいしさを現地に届けたい」という声を聞き、農家と連携してアジアにお米を輸出するプロジェクトを始めました。現地法人をつくり、新潟から玄米を輸出し、現地の高級レストランから受注後に精米して届けたのです。この新ビジネスは爆発的な人気を呼び、お米の輸出量が拡大。農家の方と企業、ウィンウィンの関係を築け、大きな成果をもたらしました。

 現場を大事にするこの企業の取り組みは、大谷大学の教育とも重なるところがあります。大谷大学は教育方針を示す言葉「Be Real」を掲げ、現実や真実としっかり向き合い、社会が抱える様々な課題を解決していこうとされています。現場で得られたリアルな実感を大事にすることは、これからの教育でも大変重要なテーマになると感じます。

コミュニケーションと多様性も重要テーマ

 企業が力を入れている二つ目のテーマは「ダイバーシティー(多様性)」。業界・業種を問わず、多様な人材が活躍する組織をつくろうとしています。組織の人間が画一的だと、多様化する消費者のニーズに応えられないからです。私は日産自動車のカルロス・ゴーンさんにインタビューした15年ほど前に、ダイバーシティーの重要性を実感させられました。日産では経営再建が一段落した後、攻めの経営に打って出る時に、多様な人材を育てる社長直結の部署を新設し、女性の活用を積極的に進めました。今では経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」(女性の活躍推進に優れた上場企業)の常連になっています。

 三つ目は「アナログのコミュニケーション」。ダイバーシティーとも関連があります。性別、国籍、価値観などが違う人が集まる組織で、互いに理解し合うにはフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが重要です。トヨタ自動車は最先端の経営手法を取り入れる一方で、従業員同士が触れ合うコミュニケーション活動に活発に取り組んでいます。最大の行事は海外も含めた部署対抗の駅伝大会。仲間意識が強くなり、一体感が高まるようです。

 「現場を大事にする」「ダイバーシティー」「アナログのコミュニケーション」は地域づくりを考える上でも大事な要素だと考えます。そして、もう一つ、これからの社会やコミュニティーの在り方を変える大きな力になるのが若い起業家です。ユーグレナという会社を25歳で立ち上げた出雲充さんはミドリムシの大量培養技術に成功。世界の食料難を解決させるべく奮闘しています。社会貢献を目指し起業する若い人たちに大変期待しています。

ディスカッション:現場に出向き 地域の力を引き出す

住む人が主役の地域を創生する

友澤:地域創生についてのお考えをお聞かせください。

福島:色々な地域が活力を持つことは日本経済の発展につながりますが、一番重要なのは、地域に暮らす人が主役のコミュニティーをつくることだと思います。

志藤:国は「地方創生」という言葉を使い、東京に一極集中する人口を地方の自治体に振り分けようとしています。物事を「中央」と「地方」と分けて考えることがそもそも間違いだと思います。また、地域を変革するには外部の人の力も大事です。私は学生と地域調査をしますが、困りごとなど住民同士で話しにくいことでも、地域を学ぼうとする若い学生には話してくれます。そこで掘り起こした言葉は、問題解決のカギを握っています。

野村:社会学の調査をすると、現場では多様な声を耳にします。ところが調査報告をしていくうちに、「この地域はこうで、こうあるべき」と一くくりにまとめられがち。現実を固定化、必然化してしまわないことが重要です。社会学者のマートンが「予言の自己成就」(予言を信じて行動すると、結果として予言通りの現実がつくられる現象)と言ったように、虚報でも現実を構築する恐れがあるからです。地域創生するには多様性を担保し、伝承してきた文化をいかに維持するかが重要な焦点になると思います。

学生が社会とつながり 課題解決に挑む

友澤:地域創生と若者との関わりについては、どのようにお考えですか。

志藤:本学は来年から社会学部(設置届出中)をスタートさせます。多様な視点と観点から今の現象を捉える社会学の手法を使い、地域に焦点をあてた学びを展開します。既に社会学科の学生は、地域に出て課題と向き合っています。京都市の高齢化が進む集落では、学生が一軒一軒聞き取り調査を実施したり、住民とともにお茶づくりに取り組んだりしています。学生が現状を知り一緒に問題を考えることで良い作用が起き、地域を創生する一つの手掛かりが生まれると期待しています。

野村:若者の間では、アニメに描かれた場所を訪ねる「聖地巡礼」が人気です。旅先の風景がアニメの世界と重なることで、現実と虚構が互いに反響し合い、リアリティーを編み直しているのです。しかも、実際に現地に行くと、建築の素晴らしさに興味を持つなど、思わぬジャンルの知識とつながることもあります。これからの社会は変化が激しい。自分で行動を起こして色々な経験を積み、応用できる知識を蓄えることが大切だと思います。

福島:島根県・隠岐島にある島根県立隠岐島前高等学校は、人口減少が進み、廃校の危機にありました。住民が知恵を出し合い、魅力的な高校にするため、高校生が地域の現場に出て話を聞き、課題の解決策を考える授業を導入したのです。例えば、冬に観光客に来てもらうために必要なこと、島で太陽光発電ができないかなどの課題に向き合いました。この取り組みが人気を呼び、県外から「留学」する高校生もいて生徒数が増加し、廃校を免れました。若い人の視点やアイデアは、地域を変える大きな力になると思います。

友澤:若い人が大谷大学で学ぶ意義はどこにあるでしょうか。

志藤:未来の社会は不透明ですが、何が起きても人と一緒に生きていける力を身につけることが最大の教育だと思います。大谷大学は「Be Real 寄りそう知性」という言葉を掲げています。人に寄りそうことで知性は磨かれ、その知性を磨ける教育を行っていきます。

野村:来年から3学部体制になりますが、学生数自体はそれほど変わりません。本学は教員と学生の距離が近く、この伝統をこれからも守っていきます。

福島:社会に出て現実に向き合うと色々な気付きがあり、将来の目標が見えてくると思います。「Be Real」にのっとってチャレンジしてください。

友澤:ありがとうございました。

PROFILEプロフィール

  • 福島 敦子(ふくしま・あつこ)氏

    ジャーナリスト

    中部日本放送を経て、1988年に独立。NHK、TBS、テレビ東京などで報道番組のキャスターを担当。これまで700人超の経営者を取材。経済・経営などをテーマとした講演やフォーラムでも活躍。

  • 志藤 修史(しどう・しゅうし)

    大谷大学 文学部社会学科教授【社会学部長就任予定】

    龍谷大学大学院文学研究科修士課程修了後、社会福祉法人京都市社会福祉協議会所属、2005年大谷大学文学部専任講師、08年同大学准教授、13年同大学教授。社会福祉士。

  • 野村 明宏(のむら・あきひろ)

    大谷大学 文学部社会学科教授

    京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。京都大学大学院21世紀COEプログラム研究員、四国学院大学社会学部准教授を経て、2015年大谷大学文学部准教授、17年同大学教授。