水たまりに全力で飛び込む。泥を、あきもせずこね続ける。
大人から見れば「また服を汚して…」と、つい困ってしまう行動です。
しかし、その夢中の裏側には子どもが育つうえで、大切な何かが隠れているのかもしれません。

泥・水・砂には、決まった遊び方がない

なぜ子どもは泥や水、砂にこれほど夢中になるのでしょうか。その大きな理由は素材そのものの性質にあります。積み木や人形は形が決まっていて変わりませんが、泥・水・砂は混ぜたり握ったりするたびに形や感触が変わります。だからこそ子どもの「やってみたい」という気持ちを次々と引き出します。田んぼの泥はドロドロ、畑の土はフカフカしっとり、道端の砂はサラサラというように、場所によって異なる感触を手で確かめます。触るたびに起こる変化に心を動かして夢中になるのです。こうして活動が複雑になり、思考や対話が深まっていくことは「遊びの深まり」と呼ばれる子どもの豊かな経験の姿です。

泥だんごが割れた瞬間に、学びが生まれる

泥んこ遊びの代表格といえば泥だんご作りです。ピカピカに光る泥だんごを作るには、泥の水分量や握る力の加減、乾かし方などいくつもの条件がぴたりと合う必要があります。うまくいったと思っても、どこかが甘いとパカッと割れてしまいます。その悔しさから「今度はこうしてみよう」と考え直す過程こそが学びそのものです。こうした遊びを通して、さまざまな感触を受け取る五感や手先を細かく動かす力が育ちます。また、土と水の比率を考える科学的思考、何度も失敗を乗り越える忍耐力、悔しい気持ちに折りあいをつけるレジリエンスなど、テストの点数では測りきれない「非認知能力」と呼ばれる力も育っていきます。こうした「感じる力」「考え、工夫する力」「自分から動く力」が自分で考え、生き抜いていく力となっていくのです。

一本の枝が、剣にも杖にもなる

自然の中で行う保育は「自然保育」と呼ばれ、遊び道具の多くが自然のものです。食べ物の形をしたおもちゃは遊び方をイメージしやすい特徴がありますが、一方で1本の枝には決まった使い方がありません。剣にも魔法の杖にも、お店のフライドポテトにも見立てられます。身近なものを何かのつもりで使う「見立て遊び」によって遊びは自由に広がります。
用意された粘土には量の限りがありますが、自然の中にある砂や泥は形を崩しながら何度も使えます。「やりたいだけやっていいよ」と言えるほど素材が尽きずに使えること自体が子どもの発想をどんどん広げます。

自然保育では「今はこれをする時間」と活動を細かく区切らず、子どもの動きを柔軟に受け止める場面が多くあります。「これをしてみたい!」という子ども自身の主体や意欲、そして自ら安全に気をつける力を保育の中で支えているのです。大声をあげて走り回る子どもの姿も「気持ちいいんだね」と保育者が受け止めてみます。すると周りの子どもたちもおもしろがって加わり、そこから豊かな遊びの輪が広がっていきます。

自分からやってみる気持ちは、どう育つ?

子どもの成長を語るうえで欠かせないのが「主体性」です。これは自分の気持ちを感じ取り、自分で選び、自分の意思で行動しようとする姿勢のことです。赤ちゃんもお腹がすけば泣いて、自分の欲求を周りに伝えます。自分から周囲に働きかける力の芽は赤ちゃんの頃からすでに育ち始めています。ところが、大人が必要以上に先回りして「危ないから」「そのほうが早いから」と手伝いすぎると、子どもが自分で考え試す機会が少なくなってしまいます。毎朝ずっと起こしてもらっていた子が急に大人になって「自分で起きなさい」と言われても難しいのと同じです。うまくいかず悩んだり、失敗して悔しがったりする経験もすべて子どものものとなります。大人は必要なときに手を差し伸べられる場所にいながら、すぐに答えを与えずに見守ることで子どもの「主体性」を育てていきます。

汚れた後の片づけも、いっしょに

しかし、洗濯や片づけの手間を考えると大人が困ってしまうのは当然です。その「困った」の中身を少し考えてみると、子どもが遊んだこと自体より「洗濯や片づけが大変」という負担が大きいのではないでしょうか。だからこそ「楽しかったね。じゃあ、片づけも一緒にやろう」と声をかけてみるのも1つの方法です。汚した本人も片づけに関わることで、家族の暮らしを一緒につくる一員として自分の役割や居場所を感じられるようになります。自分で感じ、考え、試してみる経験は子どもがこれからさまざまなことを学んでいくための土台になっていきます。

まとめ|子どもの“汚れる遊び”が育てる、3つの力

泥や水、砂にまみれて遊ぶ子どもたちは、ただいたずらをしているわけではありません。正解のない素材とじっくり向きあう中で、たくさんの力を育てています。

  • 感じる力:五感を通して、物の仕組みや感触を「頭ではなく手」で理解する
  • 考え、工夫する力:うまくいかない理由を考え、方法を変えながら試してみる
  • 自分から動く力:「やってみたい」という気持ちから、自分で遊びを始める

子どもの「やりたい!」をどう引き出し、どう見守るかです。一見なんでもない泥遊びの中に、子どもの未来を育む仕掛けを見いだすことこそが、幼児教育を学ぶ一番のおもしろさです。

PROFILEプロフィール

  • お話しいただいたのは…

    教育学部 教育学科 幼児教育コース

    矢野 永吏子 准教授

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