大谷大学文藝コンテスト

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

『風姿花伝』に学ぶアイドル
浦川 眞琴/白百合学園高等学校 第2学年

講評
もとは庶民のものだった能や歌舞伎が盛んになるなか、現れてきたのが芸を職業とする世阿弥のような存在。それが今のアイドルに重なるのだろう。そうした“本質”に気づき、取り上げたところがおもしろい。アイドルにハマることへの戸惑いを伝えた「私」に、『風姿花伝』を勧めた「古典好きの母」。そして素直に読んだ「私」。わずかな記述から母娘の素敵な関係性がうかがえる。古典の世界をぐぃっと引き寄せ自分なりに咀嚼して展開する持論は至って大真面目だが、運びがリズミカルで軽やかな読み応え。最後、戸惑いが解消され、ハマる覚悟が決まったところで拍手を送りたくなった。なお文末の出典記載は、作品そのものに直接影響するわけではないが、読み手への配慮として好感。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/平井 克俊)

優秀賞

65点のこたえ
辻野 愛/慶應義塾湘南藤沢高等部 第1学年

講評
「あい」ちゃんのあだ名が「人工知能」だという。今話題のAIは小学生にも身近らしいが、本人は「冷たそうだな」。成長するにつれ、友との日々は楽しいが焦りや不安も渦巻き「出遅れたようで焦ってしまった」。テンポよく綴られる日常生活、その根底に漂う悶々とした感じが、人工知能の過渡期、対応に追われる“大人たち”の様子と重なるよう。「AIは部活終わりに食べた美味しいアイスも一緒にカラオケで歌ったあの歌も知らない」が秀逸。人とAIの違いとしてよく挙がる「温もり」の正体を自分なりに掴み、喜びを見出せたのがいい。さわやかでそれこそ「温もり」の通う作品。タイトルが効いている。せっかくの「65点」というキャッチーな語をより意識すればよりエッセイ感が増したかと。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/平井 克俊)
マイヒーロースーツ
松本 馨/慶應義塾湘南藤沢高等部 第1学年

講評
子供の頃の思い出語りと思いきや、なんと楽しい作品か。どれほどスーパーマンに憧れたか、ゴムボールが弾むようなポンポンポンッとした4歳の思いがそのままの温度感をもって伝わってくる。Tシャツ入手のために策をめぐらせるかわいい意志も、「ずっと日に当たって少し暖かかったそのスーツは、子供のぼくにはまだ少し重かった」けれどご満悦の表情も、つぶさに。4歳の頃の話は「ぼく」、現代は「僕」という書き分けも、時の流れを感じさせ効果的。とにかく歯切れのよい文章、その場の様子が目に見えるような描写。総じて、うまい。ただし、中学生に一言。ジェダイやスーパーマンはともかく、指揮者への道を閉ざしてしまうのは早すぎる。ぜひとも目指してもらいたい。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/平井 克俊)

PHPエッセイ賞

味噌汁
村下 誠人/慶應義塾湘南藤沢高等部 第1学年

講評
毎朝、家族のために朝ご飯をつくっていたひいおじいちゃん。作者は当時小学生、これからもずっと続く当たり前の光景として映っていたのであろう。「人が亡くなる」ことが実感できない、数日経ってもう会えないことを知る過程の表現はまさにリアル。「味噌汁」の味の変化でその悲しみ・悔しさが一挙に溢れ出した気持ちを素直にド直球で表現した文章は作者の人間味が垣間見え、たいへん好感がもてた。ひいおじいちゃんが大好きで家族想いの少年から、少し大人になった素直で家族想いで、周りの人たちへも心優しい青年へと成長した姿が目に浮かぶ。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/平井 克俊)
※作品は、月刊『PHP』7月増刊号にも掲載されます。(2024年5月18日発売)
 →月刊『PHP』5月増刊号への掲載に変更となりました。(2024年3月18日発売)

大谷文芸賞

選択と生きる私達
佐野 美咲/慶應義塾湘南藤沢高等部 第1学年

講評
「もし今日が人生最後の日なら」と、誰しも一度は考えたことがあるのではないだろうか。
筆者はこの問いを『行動しないための言い訳』ではないかと捉え、自身の経験と日々の過ごし方を振り返っている。何か大きな決断をした人もそうでない人も、この文章から新しい視点が得られるのではないか。著者にはこれからも、自分で選んだ道を良かったと思えるような選択をして頂きたい。
一方で『かつての賢人たち』が具体的には誰を差すのか、どのような意図を持っていたのかを明確にするべきだと考える。そして筆者の主張との相違点を発見できれば、より良いエッセイになるだろう。
(学生サークル 大谷文芸)

 

奨励賞

ちゃんと向き合うということ
和気 永佳/大谷高等学校(大阪) 第1学年

おわすれものはございませんか。
池町 美花/兵庫県立小野高等学校 第3学年

友だちがくれた安心
木村 心音/香川県立視覚支援学校 第2学年

講評
『ちゃんと向き合うということ』
淡々とした語り口調に、かえって底知れぬ切実さが漂う。友人の登場で空気がほんのり色づいていくような印象を受けた。「そんな中で出会ったのが」に驚く。思いつくでも、走るや向かうでもない。15歳の死生観。ここで「出会」うという語を使う意味を考えさせられた。

『おわすれものはございませんか。』
タイトルと書き出し、「おわすれもの」「忘れ物」「忘れ者」の書き分けが期待をあおる。軽妙洒脱な一語一文は「(表彰状の)筒」や「非接触体温計」を、まるで意思を持っている生き物のように描き出す。落語さながらの世界観、押し引き、緩急のバランス感覚が光る。

『友だちがくれた安心』
「今度買い物に行ったときには『この言葉思い出すんやろうなぁ』と漠然と」にぐっときた。作業療法士の言動への驚き、戸惑い、本音、また過去の体験が凝縮された、さりげなくも深い一文。友の反応を「肯定」とした表現もいい。周囲の心を受けた「私」の今後が楽しみ。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/平井 克俊)