2022年度 大谷大学文藝コンテスト

【小説部門】受賞作品

最優秀賞

琥珀の色彩
木村 茉緒/私立筑紫女学園高等学校 第2学年

講評
作品全体の構想と構えを展開していく手法が見事だ。冒頭、眼前に青空が広がる。色彩の象徴される意味が、題名と交響して読む者の惑動を刺激してくる。門司という町の風光、歴史に根ざした文化の表情と情報も丁寧に描かれている。構えの中で、挿話を配置する手際は、簡単な方法ではない。それが、自然に挿まれてさらに、作品における主題へと、簡潔に美しく昇華されている。美しいという評価は、曖昧な感想ではない。作者の現れさえも、そこにある。
そして、青い歳月も始まりは、琥珀色という無垢。美は時間の堆積と錬磨の中から生成されるというテーマに結ばれていく。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)

優秀賞

春色フレーム
後藤 浩介/私立立命館慶祥高等学校 第3学年

講評
大げさに言えば、作者がとらえているテーマは、世界のフレーミングということだろう。冒頭、「指フレーム。左右の親指と人差し指をL字型にして、組み合わせる」という方法が示される。道具ではなく、身体による風景の把捉法。体温と気のぬくもりがここにある。それが、「六つ上の従姉」との関係性にも通じている。年の差は、個の差でもあるが、心の交わりが、会話を通して、孤独を溶かしていく。
内向きの個と、親しい友である他者に向けた視線。この世界の中で、小さくフレーミングされた交わりの時間かもしれないが、人として大事な情感が、満ちていた。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)
天翔ける呼応(あまかけるこおう)
森田 康生/愛知県立岡崎高等学校 第3学年

講評
俵屋宗達の「風神雷神図」の由来をめぐる話が中心に据えられている。いや、中心は、友との交わりかもしれない。この二つのテーマが二軸となって、絶妙な会話を介して描かれている。ごく普通の高校生にとっての日常。ファストフード店、コーラ、試験、塾といった物や事の情景の間に、歴史的な名画の存在がからまってくる。
そして友の死。象徴的に描かれる、竹の花の儚さ。題材として複雑で、しかも作者が表現したい核心は深い。いくつかの場面展開の構えを考えたら、紙数が足りなかったことが、少し悔やまれる。ただ、果敢に書き、挑んだ筆力に感嘆した。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)

大谷文芸賞

ホワイトサマー
島明 佳音/私立筑紫女学園高等学校 第2学年

講評
正直なことを言えば、これが大賞だろうと思った。そうして今でも思っている。語りは貫太という名前の子供であり、文章には彼の(作者の)素晴らしい感性が散りばめられている。貫太が「なぜノアが戦争絵を捨てて走り出したか」それをわからずに終わるという部分、言葉を持たずに通じ合う二人の邂逅およびその表現、作品末尾は「夜」があるわけだが、その題との対比、いずれも素晴らしい。
こうしたベタ褒めをすると、言葉の信用性が疑われるとは知りつつも、そう言わざるを得ない完成度だった。プレッシャーを感じず、是非作者にはこれからものびのびと書いていただきたい。(少なくとも私は既に君のファンだ)
(学生サークル 大谷文芸)

奨励賞

座敷童と祭りの話
片木 春香/私立北星学園女子高等学校 第3学年

フトン屋のばあちゃん
中村 文音/私立二松学舎大学附属高等学校 第2学年

総評
奨励賞となった二作、「座敷童と祭りの話」「フトン屋のばあちゃん」もよく読ませる優れた作品であった。
前者は、神社と祭りというシチュエーションを背景に、昔話のようなゆるやかな物語が展開されている。ただ、旧態の話仕立てではなく、現代のアニメーション作品で描かれる、性急な幻想譚のようにも読める。語りや、そのテンポはリズミカルで技術は長けている。ただ、譚は一点で小さく閉じてしまっているように思えた。
後者の作品は、作者の実体験に基づいた設定のようだ。フトン屋という状況と祖母の存在が素直に描かれている。この素直さの中に現在性が活写されて、家族と社会の只中にある日常が浮かび上がってくる。ゆるやかな時間を、作中の中に入って読み進んだ。ただ、体験に忠実であろうとすることで、題材に深みと強みが後退しているように感じた。
虚実の相反する構えの中での切実と感興の創造。それを一人の手際で生成するのだから簡単ではない。だからこそ期待したい。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)