2022年度 大谷大学文藝コンテスト

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

世間の大人の皆様へ
北條 七海/山梨県立甲府東高等学校 第3学年

講評
コロナ禍の現在ならではの作品。自分たちに向けられる「かわいそうだよね」の声、国民総保護者のような状況に辟易していたのだろう。腹立たしさと反骨心のようなものを、奇をてらわずストレートに表現している。若いエネルギーにのってびしびしと伝わってくるその訴えに、“世間の大人”としていささか反省させられた。
ただ、怒りの感情が立ちすぎて、実際の高校生活の様子が埋もれてしまった印象。自分たちが何を楽しみ、何に心動かされてきたのかを丁寧に綴ることで内容や感情に厚みが生まれ、それは、わかっていない大人たちへの説得力ともなるだろう。タイトルがうまい。それに合わせて手紙スタイルで綴るという手法もありそう。
(株式会社PHP研究所 メディアクリエイティブ出版局 局長/平井 克俊)

優秀賞

龍が消えた日
大田 梨乃/私立白百合学園高等学校 第1学年

講評
堅実な文章が琴という楽器がまとう雰囲気によく似合い、部活に真摯に取り組む姿が伝わってくる。「この世界にこの曲が存在していることが誇らしく~」は『龍星群』という曲の魅力を存分に表現した、光る一文。書き手がどれだけ惹かれているかがうかがえ、筝曲に明るくない者にも聴いてみたいと思わせる。それだけに「龍が消えた」その日、そのタイミングの描写、「私」の葛藤や努力、考えたことなどがもっと読みたかった。
P2「運命の日」の扱いについて。『龍星群』と出会った大切な日である一方、タイトルは「龍が消えた日」で、これまた大切な日。「日」にまつわる記述は後者にしぼって他に設けない方が、内容がブレないかと。
(株式会社PHP研究所 メディアクリエイティブ出版局 局長/平井 克俊)
いただきます
森 和香子/私立白陵高等学校 第1学年

講評
冒頭でぐっと引き込まれた。内容は生命、社会の仕組み、人への思いと大きく広がっていくが、タコの独特の動きも含めて表情豊かに、軽快かつテンポ良く綴られていくため、深刻になりすぎることがない。とはいえ、その考察や感謝の思いが実体験に基づいているので、内容はきちんと届いてくる。「生から死へ向かう、一番辛い工程のタコ」の記述は、決して楽しさだけでなかった家庭科室での様子を端的に表現、センスを感じた。
ただ、「と殺」のくだりは要注意。生命にかかわる作業を表す言葉であるがゆえに,慎重に扱ってほしいところ。高校生にそこまで求めるのは酷かもしれないが、人に読ませるものであることを意識するよう促したい。
(株式会社PHP研究所 メディアクリエイティブ出版局 局長/平井 克俊)

PHPエッセイ賞

おばあちゃんの英世
池町 美花/兵庫県立小野高等学校 第2学年

講評
タイトルを見たとき、いったい何を意味するのだろう?と疑問と同時に惹きつけられた。著者の独特な語り口調の文体は好みが分かれるかもしれない。しかし、そこには著者の素直さや“クスっと笑ってしまうユーモアある表現が混じり合い好感がもてた。最後の「人生初の見知らぬ人へのお手伝いの記念として、もらった英世はお金として使わず、優しさを思い出すために使う」という著者の言葉にはほろりときた。おばあちゃんに対するいたわりや優しさ、著者の人間味が存分に出ており、こんな息子がほしいなと思わせてくれる心温まる作品。
(株式会社PHP研究所 メディアクリエイティブ出版局 局長/平井 克俊)
※作品は、月刊『PHP』特別号にも掲載されます。

大谷文芸賞

「声」
中村 樹里/私立松陰高等学校 第2学年

講評
題の通り「声」で紡がれる話を「文」で表現している点にまず惹かれた。作者の感受性や価値観が、おそらくはありのまま作品に落とし込まれており、等身大の語り口には強く共感することが確かにできた。冒頭部分の事情をぼかした心境の表現も見事。私見だが、コンテストの文字数制限に囚われず、むしろのびのびと書く方が向いているかもしれないとも思われた。このような場を借りて作者にこうして思いを伝えるのは恥ずかしいことではあるけれど、私も勇気を出し、こうして「声」に出してみた。機会があればまたこの作者の語りに出会いたいものである。
(学生サークル 大谷文芸) 

奨励賞

映像より
菅原 響/私立第一学院高等学校 第2学年

ピアノを愛する、地球を愛する
歌原 穂乃子/私立白百合学園高等学校 第1学年

講評
両作品とも日常を入口に視野を広げ、真摯に向き合おうする著者の姿が好ましい。『映像より』は、あふれる報道素材を目にしてあれこれ逡巡する様子が生々しく、モニターを前に肩を落とす書き手の姿が見えるよう。整った文章が読みやすい一方、さらりと流れてしまう印象も。 “戦争とは、争うとは”の問い、ひいては命についての記述を深めてはどうだろう。美しい情景をはじめとおわりに置く構成はおもしろい。『ピアノを愛する、地球を愛する』は、ピアノが直面する諸問題に関心を深めていく過程がつぶさに伝わり、意識の高さがうかがえる。ただ、考えや感情の描写はやや物足りない。とりわけ「本物のピアノ」という言葉はもっと深めてほしかった。その魅力や思いを含め存分に語れば、作品上のキーワードとして際立ち、本来別物である電子ピアノを「代用品」と語る、その理由を読み手に納得させることへとつながる。
(株式会社PHP研究所 メディアクリエイティブ出版局 局長/平井 克俊)