2022年度 大谷大学文藝コンテスト

【親鸞部門】受賞作品

高校生の部

最優秀賞

たった一言
山下 真葵/私立東京農業大学第二高等学校 第1学年

講評
「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えることの大切さを自分の経験に基づいて語る印象的なエッセーです。特に情景描写の文章が優れています。大事な予定があるのに電車に乗り遅れてしまった朝、忙しい中を学校まで車で送ってくれたお母さんに「ありがとう」を言いそびれてしまう。その場面がドラマチックに描写されています。まるで長回しの映画の一場面のような臨場感があります。その日は一日中後悔して、最後に勇気を出して小声で「ありがとう」と伝えたときのお母さんの笑顔。感謝の気持ちを伝える一言の大切さがよく伝わってきます。
(仏教教育センター)

優秀賞

当たり前なんてない。
徳田 彩乃/私立大谷高等学校 第3学年

講評
「今を生きてほしい」という未来へのメッセージには、ラテン語のCarpe diem.(カルペ・ディエム「その日をつかめ」“Seize the day.”)という警句に通じる普遍性があります。それを幼い頃に病気で亡くしたお母さんと一緒に過ごした日々への思いを中心に表現しており、実体験に基づく説得力があります。当たり前のように感じられる日常は、決して当たり前ではない。良いことも悪いことも必ず自分の糧になるから、この瞬間を精一杯大切に生きたいという著者の強い思いが伝わって来ます。
(仏教教育センター)

優秀賞

 マイマスク
亀井 里奈/私立大谷高等学校 第1学年

講評
タイトルにあるマスクというのは、コロナの時代にみんなの必需品になった医療用マスクのことではなくて、自己を偽る「仮面」という方の意味です。この「マイ マスク」というタイトルは一ひねりあって引き付けられます。中学時代を振り返ると、ほんとうの「私」を見せないように何重にも仮面を被っていたけれども、今はたとえ難しいことであっても「ありのままの私」でいることが大切だと思う。これは成長にともなうポジティブな変化ですね。「光り輝いた笑顔で毎日を」という結びのメッセージには明るい希望を感じます。
(仏教教育センター)

中外日報社賞

未来へ伝えたいこと
大垣 いぶき/私立昭和学園高等学校 第3学年

講評
別れが辛く悲しいのは、一緒に生きてきた時間の豊かさゆえでしょう。生きることは出会いと別れの繰り返し。でも、あなたは「いつ別れが来るかも分からかないから、今を大切にしているのだ」と感じて前を向いています。お母さんもまた「悲しいけど悔いはないよね。いっぱい会いに行ったし」と共に生きた時間を振り返ります。読み終わってタイトルの意味が胸に沁みました。曾祖母の安らかな優しい最後の姿、集まった人達たちが優しい声を掛け合う場面は、そのまま幸せな人生の涅槃図のようです。
(株式会社中外日報社 代表取締役会長/形山 俊彦)

奨励賞

約束
野々口 歌菜/私立大谷高等学校 第1学年

相手の立場に立って
大倉 心結/私立札幌大谷高等学校 第2学年

講評
奨励賞の2作品は、どちらも少し抽象的な内容をテーマにしています。「約束」の方は「過去と向き合い続け、未来を怖がらない」という生き方を願う文章です。「過去と向き合い、未来を怖がらない」というのが具体的にどういうことを意味するのか、もう少し例を挙げるとイメージが湧いて読みやすくなるように思います。次の「相手の立場に立って」という作品は、自分が眼鏡をかけるようになって世界の見え方が変わった体験に基づいたエッセーです。「見る」という行為について「眼鏡」「色眼鏡」「フレーム」「視界」などをメタファー(暗喩)にして私たちの認識の問題点を考察しているので、もう少し対応を明確に整理して丁寧に論じると文章に深みが出たように思います。
(仏教教育センター)

中学生の部

最優秀賞

大切な人
小林 樹莉/私立札幌大谷中学校 第3学年

講評
ロシアのウクライナ侵攻と安倍元首相の銃撃事件という今年の衝撃的なニュースを背景に、自分が本当に大切だと思う人と一緒に過ごせる時間を大事にすべきことを訴えて心に響く作品です。大切な人との時間を大事にできなかった自らの苦い体験にもとづいており、その痛切な思いが誠実に綴られています。身近な家族や友人と過ごす日常を当たり前のこととせずに、精一杯大事にしていこうという気持ちにさせられます。未来に伝えるメッセージとして人の心を動かす力があります。
(仏教教育センター)

優秀賞

傷つけない
四方 花奈/私立大谷中学校 第2学年

講評
現代世界を生きる私たちが直面する三つの大きな問題として地球温暖化・戦争・誹謗中傷の三つをとりあげ、それらの問題を改善していくためには「傷つけない」という生き方が最も重要であると述べています。論理的で構成がよく整った読みやすいエッセーです。「傷つけない」というのは、マハトマ・ガンジーが大切にした生き方で、インドの言葉でいえば「アヒンサー」(不殺生・非暴力)ですが、これは仏教が基本とする生き方でもあります。いつの時代、どの世界においても、大事なのは「傷つけない」生き方なのです。
(仏教教育センター)

文化時報社賞

タイトルなし
田野 恋雪/私立大谷中学校 第3学年

講評
「このままでは海が死んでしまう」というおじいさまの言葉が胸に刺さりました。毎日漁に出て、海の変化を実感している方ならではの重みがあります。田野さん自身も、海に潜ったときに見た海草の様子を自分の言葉で簡潔かつ的確に表現してくれました。
地球温暖化は長年にわたり問題が指摘されているにもかかわらず、なかなか解決への糸口が見いだせません。最近は「気候危機」ともいわれるほどで、貧富の差や紛争・戦争を助長すると捉えられています。そうした世界的な課題に対し、身近なお寿司の話題から入って関心を呼んだ点も評価します。
(株式会社文化時報社 代表取締役/小野木 康雄) 

奨励賞

どうにかなるさ。
篠原 聖宙/私立大谷中学校 第3学年

戦争のない世界
林 実優/私立大谷中学校 第2学年

講評
自分の生き方と世界の在り方を未来に伝えようとする2作品が本年度の奨励賞に選ばれました。「どうにかなるさ」は、好きな曲の一節をタイトルにしており(英語なら“Don’t worry. Be happy.” という感じでしょうか)、明るく元気が涌き出るような軽快な筆致で、未来の自分に向けて書かれています。自己と向き合うことの大切さについて、自分の体験を例に具体的に書かれています。次の「戦争のない世界」と題された作品は、平和で戦争のない世界を願い続けることの重要性をテーマにしています。最後の段落は「少しでも自分が役立つと信じて。」という形で結ばれていますが、その願いの実現に向けた自分の生き方を、少し具体的に書き込むとさらに良くなったように思います。
(仏教教育センター)