2021年度 大谷大学文藝コンテスト

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

該当なし

優秀賞

左様でござんしたか
続 遥夏/私立学習院女子高等科 第2学年

講評
SNSでの他人のプライベートをめぐる反応、とりわけ負の循環の仕組みに触れ、そうした他人の意見に左右されないようにと「左様でござんしたか」精神の大切さを説く。
ただ、自分には関係ないと割り切る姿勢は、特段目新しいものとは思えない。一方未来においては、著者もSNSそのものを断ち切ることができないようだが、それが「自分の社会的地位を維持し続けるためにも」という理由がよくわからない。
ただし、巧みな表現も散見され、優秀賞に残した。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/大谷 泰志)
「介護」のこれから
中野 雅/鹿児島県立鶴丸高等学校 第2学年

講評
たいへん今日的な大きなテーマに正面から挑んだエッセイになっている。
臨終での親に対する向き合い方を自然界の生き物と人間とで比べ、親の面倒を見るという精神的な側面にも触れつつ、儒教観を交えた深い思いが展開されている。欲を言えば介護経験のある人、介護の職場にいる人などに話を聞いてみてもよかったと思う。
自身の考えが決定的な体験から生まれていれば、より説得力も出るだろう。 
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/大谷 泰志)
人生の希望
脇田 七澄/鹿児島県立鶴丸高等学校 第2学年

講評
広場の腰掛から見える人々の情景から、人生とは?なぜ生きているのか?と思索を進めていく。眼に入るものをうまく描写している。
それでいてちょっと観念的な文章のように思えるのは、思考過程に自身の体験が描かれていないからだ。自分なりの生き方論をあげるのはかまわないが、もっと自身の体験を折り込み、そこから考えた人生論を紹介していかないと、説得力に欠けるのではないか。
そのあたりで評価が分かれ、突き抜けることができない作品である。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/大谷 泰志)

PHPエッセイ賞

吾輩は猫の同居人である
池町 美花/兵庫県立小野高等学校 第1学年

講評
猫の飼い主ではなく、同居人から見た猫のレポート。相当に猫のことを腐しながら、猫への愛情がしっかり伝わってきて、微笑ましい。
それはこの猫としゃべりたいという願望を、想像しながら巧みに描いているからだ。フツーに猫への愛情を書けば、それだけで終わるが、猫の同居人というスタンスを取りながら、その位置から濃やかに描写することで、文芸的な工夫がみられる。    
生きとし生けるものに対する温かいまなざしが感じられ、PHPエッセイ賞に推した。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/大谷 泰志)
※作品は、月刊『PHP』特別号にも掲載されます。

大谷文芸賞

今だからこそ考えるこれから
田部 快太/鹿児島県立鶴丸高等学校 第2学年

講評
文体は整っており、紡がれた文章は素直に称賛に値する出来だった。高校生で、世の中の基幹となる仕事エッセンシャルワーカーに目を向けているのも、とても良い着眼点だと思う。高校生ならではの素直なエッセイだったので大谷文芸賞に選出した。
惜しむらくは、内容をもう少し深化させ、例えば「日本のエッセンシャルワーカーがその産業構造の中でどのような位置に置かれているのか」といった問題等と自身の生活を結びつけて考えを練っていけば 、より深みのあるエッセイになったであろう。次は是非、考えた内容を様々な語り口で書いてみるということを試してほしい。
例えば雀の目で人々の生活を語ってみたり、などだ。 エッセイは鋭くある必要はない。肩の力を抜いて、自分らしい文章をこれからも書き続けてほしい。
(学生サークル 大谷文芸) 

奨励賞

大みそかにインフルエンザにかかった話
稲葉 悠真/京都府立海洋高等学校 第3学年

弟の言葉
岩元 優那/鹿児島県立鶴丸高等学校 第2学年

神に愛されて死にたい
河野 蓮/鹿児島県立鶴丸高等学校 第2学年

講評
「大みそかにインフルエンザにかかった話」。〝病院ほぼ初心者〟の体験記は、レントゲンやエコーなどを知らない者からの視点が笑える。ただし、文芸的なたくらみを感じない。改行もほとんどない。それが意図的な表現の企てなら良いが、無自覚ではないか。
「弟の言葉」は主題が定まっていない。せっかく弟の言葉で、自分の考えが変わる体験を描きながら、その後に展開するSNS上の誹謗中傷や言葉の影響力の話題を出すことで、前半のエピソードが薄まってしまっている。まとめ方も一般論すぎてもったいない。
「神に愛されて死にたい」。『フランダースの犬』のネロが生き続けていたら、という想像はおもしろい。ただし、小学校四年生で読んだ時と高校生の今とで感想が違うならば、その理由にも思いを巡らせてはどうか。エッセイの締め方にもひねりがほしい。
「おや」と思わせる着眼、「まあ」と驚かせる考察、「へえ」と唸らせる描写、それらが揃った時、作品はぐんと浮かび上がる。優秀賞と大きな差はない。いま少しの工夫を。
(株式会社PHP研究所 PHP制作局 局長/大谷 泰志)