ムッレとの出会い

 スウェーデン発のムッレ教室やデンマーク発祥の森のようちえん。ともに幼児期に自然の中で楽しく遊ぶことを通して、自然の事象と親しみを感じ、自然と共に生きるための知識や技能の基礎を身につけながら、心身ともに健やかに育つことを目指す教育方法である。

ある休日、日常の保育でなく、イベント的に開催されたムッレ教室(ファミリームッレというらしい)に小学生の娘と一緒に参加した。ムッレとは自然について教えてくれるトロルの一種で、この教室に<ときどき>やってくる。紅葉の美しい、澄んだ空気も美味しい秋晴れの森の中、子どもたちはムッレの気配を感じながら、のびのびと遊んでおり、親ものんびり散策でき、たいへん楽しく過ごすことができた。

そのあと、子どもたちを近くの遊具のある広場で遊ばせながら、当日のリーダーと保護者で短時間の懇談会をもった。SDGsの話、生活における自然環境保全へむけた取り組みについてなど、紙コップに入った温かいココアをいただきながら話し合っていた。昭和世代は、なかなか生活の中での便利さに慣れてしまい、プラスチックから脱却できないね…できることからだね、と。ただ、その中でも、少しずつ「ていねいな生活」とか、「不便を楽しむ」とか、そういう価値観も出てきてるね、といったポジティブな側面についても話し合われた。

すると、一人の幼児がお母さんのところにやってきて、「どうしてコレ(紙コップ)を使うの?それ(お湯の入った保温ボトル)にはコップが付いてるのに?」と素朴な質問。大人同士で顔を見合わせた。このお子さんは、普段からこのタイプの保育の中で生活しているそうだ。自然とともに生きる日常を送っている彼の素直な感覚・価値観を前に、われわれ大人はまだまだ未熟だなぁ、と感じると同時に、本物のムッレに出会ったような嬉しい気持ちになった。

PROFILEプロフィール

  • 西村 美紀 准教授

    【専門分野】
    教育学/乳幼児教育学

    【研究領域・テーマ】
    教育学/乳幼児教育/教育課程