薄暮のひと時に思う

コロナ禍で授業や会議がオンラインとなり自宅で過ごすことが増えた。オンラインでの授業や会議は直接会えない不自由さが大きい。

それでも良いこともあった。オンラインで授業配信していた自宅の部屋は南向きで、PCの向こう側に大きな窓がある。午前中には、太陽が空の真上に近づくにつれて日差しが強さを増していくのが見えた。ある時は、西側から曇ってきたなと思うと、あっという間に大雨になり、雨の雫が窓をつたい落ちるのに心を奪われた。窓から見える空が、1日の中で何度も美しい姿を見せてくれて、自宅で一人過ごす時間に豊かさをもたらしてくれた。

特に私は、太陽が沈み、燃えるような夕焼け空が赤みを徐々に失って夜になっていく、暗くなりきらないそのひと時が好きで、真っ暗になるギリギリまで照明をつけずに過ごすことが多い。夜に向かって徐々に赤みを失い変化する空を見ながら、今日が良いものであった、と振り返る。そんな時間がなぜかとても大切なものに思えた。

思えば最近の生活はとても慌ただしく、空の様子が移り変わることを見つめることも、そのことに関心を寄せることもなくなっていた。夜になれば照明が強い光を放ち、寝る間際まで昼間が続いているかのような生活。そして、便利な物に囲まれて、たくさんの情報を得て、これでもかこれでもかと新しいことを探し求める日々だったように思う。

これから私たちの暮らしはどのように変化するのだろう。できるなら、以前と同じような暮らし方に戻すのではなく、薄暮のひと時に今日という日が実り多いものであったと思いを巡らせるような、そんな日々にしたい。暮れていく空を見ながら今日を思い、どんな明日を作ろうか、と学生さんやいろんな人たちと語り合えたらいいなと思っている。そんな語り合いが、未来を彩っていくと信じている。

PROFILEプロフィール

  • 中野 加奈子 准教授

    【専門分野】
    社会福祉学(社会福祉援助技術論/貧困問題/医療福祉/生活史研究)

    【研究領域・テーマ】
    ソーシャルワーク/生活史アプローチ/ホームレス問題