誰のため?から考える博物館の展覧会

とある市立博物館に勤務していた時のことだ。「博物館でどんな展示をみたいですか?」といった問いを館長が市民に投げかけていた。こどもや育児中の家族、若者はアニメやマンガなどのキャラクター展を、高齢者は著名な芸術家の作品展や地元の歴史・文化の展覧会を望む傾向があった。

この傾向は、どの博物館でもよくみられることだと思う。ただそれは重い問題に行き着く。例えば、ポケモン展をすれば、こどもや若者は来てくれるが、それを知らない高齢者が来ない。一方で、市内の伝統工芸を紹介する展示をすれば、その逆だ。何らかのニーズに応えようとすれば偏りは当然出る。問題はこの偏りが生じることで、それは全市民が楽しめていない展覧会だったと館内部で評価されてしまうことだ。誰かが楽しめないことは起こりうることであるのに、それが悪いこととされると、担当学芸員には精神的に負担だ。

最近、「ポケモン×伝統工芸」展という展覧会が開催されている。それは偏りをなくす工夫のひとつと言えるかもしれない。ただ、偏りをなくすことに労力をかけるより、偏りを前向きにとらえることはできないだろうか。ひとつの展示で、全ての市民に楽しんでもらおうと思うのではなく、誰(どの層)に観てもらいたいかを発信し、その人がどうなればいいのかを設定すること、そしてその対象が満足できたら「よし」とする空気感をつくるということだ。ポケモン展を開催し、ゲームのプログラミングがしたいというこどもがいたならば、たとえ高齢者が来なかった、満足できなかった(偏りがあった)としても取り組みとしては成功だと、博物館内部はもとより市民も思ってほしいのである。

本学では博物館学芸員の養成課程に携わらせていただいている。学芸員を目指す学生に、誰のために展示をしたいのかを問うとともに、その誰かに一人でも届いていれば、すばらしい展示だったねと私は声をかけてあげたい。

PROFILEプロフィール

  • 工藤 克洋 講師

    【専門分野】
    日本中世史/博物館学芸員/歴史情報学

    【研究領域・テーマ】
    勧進/情報伝達/デジタルアーカイブ