壮年に想う

人文科学分野を含む文系学問の必要性を疑問視する声も聞かれるが、すでに人間はその問いに答えている。思想哲学を重んじない科学者、自らの倫理観を問うことのない医師、歴史に学ばない政治家(某国の大統領のみではなく)、ここに確認される「人間の危うさ」にこそ人文科学分野の存在理由がある。第二次世界大戦時の自らの決断への悔恨をもとに、アインシュタイン博士がその後の人生で何を主張して生きたかに耳を傾けたい(全面的には賛同しないが)。人文科学分野を含む文系学問の必要性を疑問視する声も聞かれるが、すでに人間はその問いに答えている。思想哲学を重んじない科学者、自らの倫理観を問うことのない医師、歴史に学ばない政治家(某国の大統領のみではなく)、ここに確認される「人間の危うさ」にこそ人文科学分野の存在理由がある。第二次世界大戦時の自らの決断への悔恨をもとに、アインシュタイン博士がその後の人生で何を主張して生きたかに耳を傾けたい(全面的には賛同しないが)。ンクリート壁に覆われ、中央に設置された実験器具には高圧の電流を流す電線が繋がれる。実験室に隣接する部屋に移動して電流を流すために充電し、起爆ボタンを押す。轟音とともに、実験器具に装填されたペンスリット爆薬が爆発し、衝撃波が発生する。実験室の壁を円形にくりぬきはめこまれた分厚いガラス窓をとおして衝撃波を測定するこの研究は、宇宙工学や爆縮技術への応用を目的として行う基礎研究なのだという。

29年前の経験が、いまこの文章を書く私に鮮明に記憶されていることにはおそらく何らかの理由があるのだろう。一つには爆薬。この研究に携わる学生は半期に一度、爆薬についての資格を持ち、大学から管理を託されている方による講習を受ける。この爆薬は航空機の爆破テロにも用いられ、1gでそれをつまむ親指と人差し指がその根元までなくなるほどの威力をもつという。扱いには危険が伴うことを、ここに記すこともはばかられるようなその方のつらい体験とともに説明がなされた。今一つは研究目的。大学4年生の私の卒業論文には、この研究と生み出される技術が平和利用と豊かな世界の実現を目的とするものであると、当然のように記されている。

軍事研究を大学で認めるか否かの議論が数年前になされたことは記憶に新しい。平和利用や人類の豊かさを目的に謳う研究も、「何のために」という目的を変更すれば、容易に軍事研究への転用がなされうる。爆縮や衝撃波内のプラズマ状態の生成技術が軍事兵器と全くの無関係でないことは、当時、大学4年生であった私にも自覚されていた。

自らの外の世界に誤りや問題を見いだし変革を期す生き方によって平和や豊かさの実現を願いつつ、ついには実現し得ないという意味での迷いの人生を転じて、自らのあり方を問い直す内観道に生きることを明示する思想の重要性を、こと改めて確認したい。

PROFILEプロフィール

  • 西本 祐攝 准教授

    【専門分野】
    真宗学

    【研究領域・テーマ】
    真宗学/親鸞の思想研究/清沢満之研究