【専門分野】
仏教学
【研究領域・テーマ】
中国仏教思想・仏教史/漢訳仏典/戒律や律僧をめぐる東アジア仏教史
犬や馬の絵とお化けの絵
専門を聞かれると、いつも「仏教学です」と答えるのだが、「その中でも特に何を?」と聞かれると一瞬戸惑う。高尚な哲学・思想や有名な僧を専門にしていれば「おおー」とでも言われるのかもしれないが、私の場合は仏教の戒律や中国ではじまった律宗を研究している。戒律には、お坊さんの日々の生活や僧団の運営方法などを記す文献群があり、その教えは日常の一挙手一投足に関わっている。いわゆる倫理・道徳というよりも、どちらかというと法律に近いものがある。その戒律は、仏教研究では二次的・三次的なものであって仏教の本質ではないというような考えが、だいぶ前には日本の学界の一部にあったらしい。
もっと昔もそうだったのだろう。私が研究している中国中世の律師たちは、次のような故事を引用する。「あるとき皇帝がお客の画家に、最も描き難いものは何か、と尋ねた。画家は、犬や馬が最も描き難いと答えた。では最も描き易いものは何か、と尋ねると、画家は鬼魅の類が最も描き易いと答えた」(取意)と。これは仏典ではなく、中国古典『韓非子』にある。そこにはその理由も記される。犬や馬はいつも見ているから、その通りに描くことが難しく、一方の鬼魅は目の前で見ることがないからだ、と。これを引く律師たちの意図は、常に現前している事柄こそ、その通りに実行することが難しいとして、戒律の重要性を伝えるところにある。
学生にとって、仏教は難解でとっつきにくいイメージがあるかもしれない。しかし実際、インドや東南アジア、中国・韓国・日本などの東アジアなど、こうした各地の歴史・哲学・文学・芸術、あるいは生活文化等に至るまで、これらは仏教と無関係ではありえず、どこかで関係している。手の届かない世界の話ばかりではなく、実は身近な物事が深く仏教と関係しているのだと伝えている(つもりである)。誤解のないように言うが、高尚な哲学・思想・教義・教学がお化けのようだと言っているわけではない。律師と呼ばれた人々が高尚ではないという意味でもない。ただ、事件は現場で起きていることを忘れずにいたい。
もっと昔もそうだったのだろう。私が研究している中国中世の律師たちは、次のような故事を引用する。「あるとき皇帝がお客の画家に、最も描き難いものは何か、と尋ねた。画家は、犬や馬が最も描き難いと答えた。では最も描き易いものは何か、と尋ねると、画家は鬼魅の類が最も描き易いと答えた」(取意)と。これは仏典ではなく、中国古典『韓非子』にある。そこにはその理由も記される。犬や馬はいつも見ているから、その通りに描くことが難しく、一方の鬼魅は目の前で見ることがないからだ、と。これを引く律師たちの意図は、常に現前している事柄こそ、その通りに実行することが難しいとして、戒律の重要性を伝えるところにある。
学生にとって、仏教は難解でとっつきにくいイメージがあるかもしれない。しかし実際、インドや東南アジア、中国・韓国・日本などの東アジアなど、こうした各地の歴史・哲学・文学・芸術、あるいは生活文化等に至るまで、これらは仏教と無関係ではありえず、どこかで関係している。手の届かない世界の話ばかりではなく、実は身近な物事が深く仏教と関係しているのだと伝えている(つもりである)。誤解のないように言うが、高尚な哲学・思想・教義・教学がお化けのようだと言っているわけではない。律師と呼ばれた人々が高尚ではないという意味でもない。ただ、事件は現場で起きていることを忘れずにいたい。
PROFILEプロフィール
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戸次 顕彰 講師