大谷大学文藝コンテスト

2019年度 大谷大学文藝コンテスト/受賞作品

2019年度 第7回大谷大学文藝コンテストにおきましては、全国からエッセイ部門494作品、小説部門124作品が寄せられました。多数のご応募ありがとうございました。
【高大連携推進室】 

審査員からのメッセージ

 たくさんの作品が寄せられた文藝コンテストも今回で7回。毎年力強い、魂の叫び、心のささやきが随所にちりばめられた作品が寄せられる。どきどきしながらページをめくると、短い人生の中から、多くの読書量、きめ細やかな取材を通した、エッセイや小説が、私の感動を呼び起こす。
 審査に当たり「自身の思いや価値観が文芸的に表現されているか」「説得力ある文章としてまとめられているか」「誤字・脱字がないか」を問われている。これは、文章をまとめ、表現するときには当然気をつけなければならないこと。そんなことを念頭に作品を読み込んでいくと、とにかく「うまい」「ステキだな」「これはいいな」など作者の力強い思いや、魂の叫び、原稿用紙と格闘する姿が感じられる。
 多くの入賞作品は何度も、何度も推敲し、「これでどうだ」と審査委員に挑戦するような作品となっていました。これからの皆さんの成長がとても楽しみな未来が見えてきました。
一般社団法人 言の葉協会 専務理事 宮脇 一徳 

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

独房と彼女と私のエゴ 岩間 ほのか

宮城県農業高等学校
第2学年
 

優秀賞・PHPエッセイ賞

寝たきりの僕が高校へ通う日常風景 大橋 慧士

大阪府立桜塚高等学校
第4学年
 

優秀賞

鳥の巣 志摩 光咲

私立白陵高等学校
第1学年
 

大谷文芸賞

キメラ 木原 綾音

山口県立下関西高等学校
第1学年
 

奨励賞

カップ麺をみる 宗像 大洋

福島県立会津学鳳高等学校
第1学年
天井のバレーボール 比江島 凛

宮崎県立宮崎東高等学校
第3学年
 

【小説部門】受賞作品

最優秀賞

逆子 高橋 亜弥

私立聖ドミニコ学院高等学校
第2学年
 

優秀賞

 写真 秋山 香織

私立筑紫女学園高等学校
第3学年
 ホーム 佐野 琳香

私立済美高等学校
第3学年
 

大谷文芸賞

カイバ 藤本 滉大

私立クラーク記念国際高等学校
第1学年
 

奨励賞

 
走る少年 広瀬 結菜

神奈川県立横浜修悠館高等学校
第1学年
巨壁の魔女 土屋 喜楽

神奈川県立金沢総合高等学校
第1学年
はじめてのお花見 田中 之葉

私立白陵高等学校
第2学年

【エッセイ部門】講評

株式会社PHP研究所 月刊『PHP』編集長
大谷 泰志

【最優秀賞】独房と彼女と私のエゴ

 著者は農業高校に通い、「牛部」でホルスタインの世話をする。牛の出産と死を通して、畜産は人間のエゴではないかと思い悩むが、難産の母牛の出産を通して、迷うことなく牛への愛情を注ぐことを決める。観察力が鋭く、読ませる。題材が筆者の環境による独特なものであり、文藝としてはどうかという声も上がったが、何を題材に選ぶかということも、エッセイの大切な要素であろう。また、本作品には匂いや音、触感も巧みに表現されており、最優秀賞に値する作品である。

【優秀賞・PHPエッセイ賞】寝たきりの僕が高校へ通う日常風景

 人工呼吸器をつけて生活する身体障害者の著者が、通学のバスで出会う視覚障害者や知的障害者との出来事を綴る。寝たきりの身障者が使うバギータイプの車椅子からの視点で描く通学風景を、著者はワクワクして楽しいと言い、読む者を引き付ける。本コンテストが求めるエッセイとしての工夫やたくらみにはやや欠けるものの、前向きな姿勢が好ましい。物事を肯定的にとらえるPHP誌の考え方にも沿っており、PHPエッセイ賞として推した。

【優秀賞】鳥の巣

 庭の木にできた大きな鳥の巣に驚く著者は、巣が出来る過程を家族の誰も気が付かなかったことを不思議に思う。その謎の考察は、空を見上げるゆとりもない生活を送る私たちの急かされた日常ゆえという結論にたどり着く。その思考過程はおもしろく読めたし、大いに共感する。ただ、題材となるこの鳥の巣をもう少し詳らかに描けないか。形や色、素材は何か、生物部に所属している高校生ならではの観察記が展開されると、さらに良い作品となるだろう。

【奨励賞について】

 「カップ麺をみる」は、着眼点がユニークで書き出しから引き込まれた。カップ麺にお湯を注ぎ待つ。その3分間に人生訓を導き出そうという企てはおもしろい。そこまで掘り下げるのか、と唸ったところもある。ただ、いささかわかりづらさが残る作品であった。
 「天井のバレーボール」は、運動音痴の著者とポーカーフェイスの男が組んだぎこちないペアが、次第にバトミントンのラリーが続くようになる様子を好ましく読めた。“濱家”への距離を置いたまなざしが効いているが、この作品もわかりづらさが残る。
 両作品ともに独特の視点があり、最終審査まで残る水準には達している。ただし、思いや考えを伝える際には、独りよがりな表現を避け、的確な描写を心がけなければならない。モチーフ(着想)を文藝として昇華させるために、もう少し工夫したいところである。

【小説部門】講評

詩人・文筆家/文藝塾講義 講師
萩原 健次郎

【最優秀賞】逆子

 自己の内面に複雑な思念がある。複雑な思念を語りだすために、作中でいくつかの仮構をしつらえている。その手際がよく見える。手際に必然性がなければ、読むものに切迫してこないが、作者の思念は切実で、手際さえも鮮やかな説得力をもって潔く迫ってくる。
 思念の根には、人間に対する肯定がある。肯定は、現代社会の多様であやうい存在を乗り越えたものであることがわかる。
 「社会の皺」という喩え、「逆子って、なりたくてなっているわけではないでしょ」という言葉にも頷ける。アクチュアルな秀作。

【優秀賞】写真

 人と人の情の交わり。それが家族であれば、濃く深くなる。父の死をきっかけに、一枚の写真を中心に据えて、主人公である娘、弟、まわりの人たちとの語らいの中から情感の機微が浮かび上がってくる。一枚の写真には、いったい何が写っていたのだろうかという想像がふくらんでくる話の運びは、とても面白い。
 ただ、登場人物の描写が若干薄く、作者の意図しているほど現実味が感じられない。家族間の情感の交差というテーマは、容易ではない。終始根気強く説いていることに好感がもてた。

【優秀賞】ホーム

 ロボットやAIをテーマに据えた作品は、いかにも今という感じだ。わが家のロボットが故障をして、新機種に買い替えるという話なのだが、単純な構図の中に読み手を吸い寄せてしまうのは、筆力があるからだろう。ロボットという亜人間に対する作者の思い入れやいつくしむ心が、ごく自然に読み取ることができた。
 「私の家に『家族』が増えたのは、小学校に入学したばかりの頃だった」という書き出し。その名が「ホーム」というのも自然な仕立てだ。ただ、何かが物足りない。それは、ほんの少しでもいいのだが、亜人間と実人間が交わる社会的な視点を示して欲しかった。

【奨励賞について】

 書き手の実人生と作中で描かれ、語られる世界は当然別物である。それは、小説の本質でもあるだろう。ある意想で、仮構された物語は、虚構であるが、そこに作者の存在は、濃淡は別にして映される。読み手は、仮構の妙味も味読したいし、なぜこのテーマを選び、この話法を駆使しているのか、存在にも興味をもち近づいていこうとする。
 どちらかであるというのではない。短い小説世界にも、仮構と存在の切実はにじみでてくるものなのだ。またこのバランスが読み手にとっての楽しみとも言える。今回読ませていただいた諸作を通して、この楽しみを十二分に楽しむことができた。
 描かれた世界が何気ない日常であっても、日常を突き破った野放図とも言える虚構であっても書き手の存在はあざやかに記される。「生き様」も「書き様」も小説という器は、如実に受け入れるのだ。そう覚悟した上で、自由自在であっていいと思う。もっともっと、楽しんで書き、あなたの「様」を文にして披歴して欲しい。

【大谷文芸賞】講評

大谷文芸(学生サークル) 

【エッセイ部門】キメラ

 自分オリジナルの文章とは何かをジブリ映画、源久寺の蓮の花を通して考えたエッセイ。
 たくさんのオリジナルが混ざって新たな作品となる、全ての人がそのオリジナルを大切にできればいいと言う結論は多少優等生的であるが、それに至る思考のイメージ——これまでに触れて積み重なってきたものが泥、出来上がる作品がキメラであり花になっている、これらが綺麗に絵になって伝わる。

【小説部門】カイバ

 記憶をなくした男が財布にあった診察券から精神病院に駆け込み、治療のために医者に紹介された仕事で金を稼ぎ、海馬を電気で刺激する。思い出したのは仕事の合間に妄想していた自分の半生とは真逆の物だった。後悔と絶望から男は自らの記憶を消すように告げる。医者はこれを繰り返して治療費を取っていた。と言うストーリー。
 全体の書き方としてハードボイルド風になっている事が作品の雰囲気をうまく作っている。また最後のどんでん返しがよくできている。