【専門分野】
社会学(地域社会学/地域政策)
【研究領域・テーマ】
モビリティ/まちづくり/地域交通政策/コミュニティ

あたまの「よい/わるい」とは
10年ほど前、博士論文を書いていた時に、師である指導教員から、物理学者・寺田寅彦の「科学者とあたま」というエッセイを読んでみてはどうか、と薦められた。社会学を専攻する自分に、なぜ物理学者の随筆を…?と思ったが、何かしらの意味が込められているのだと思い、読み進めた。
寺田の親しい老科学者曰く、科学者は「『あたま』がよくなくてはいけない」という一方でまた、「あたまが悪くなくてはいけない」という、二つの命題があるという。いわゆる頭のいい人は、足の速い旅人のようなもので、先に到着地に行くことができるが、途中の道端や脇道にある肝心なものを見落とす恐れがあるし、富士山の裾野まで来て頂上を眺めただけで、全体をのみこんで東京へ引き返す。頭の悪い人は、足が遅いかもしれないが、道の途中にある肝心なものを拾っていく場合があるし、富士山は登ってみなければその高さや、そこからの東京の景色はわからない。つまり、科学的研究に従事する者には、常識的に、ふつうにわかりきったと思われることでも、何かしらのおかしな点をみつけ、そして明らかにするために試行錯誤することが重要である、という。
もっぱら「タイパ(タイムパフォーマンス)=時間対効果」を重視するいまの若者は、AIやさまざまな検索ツールを使って事例や資料を調べる様子をみていると、皮肉でも何でもなしに、頭のよい人たちだと思う。しかしそれだけでは、とも思う。誰でも調べれば、たくさんの情報にアクセスできる時代だからこそ、何かしらのおかしな点をみつけ、そして自分なりに問いを立てて解明するために「試行錯誤する」ことの重要性が増しているのかもしれない。
なお、寺田のいう科学者は、主に自然科学の文脈であるが、これを「社会科学」に置き換えて読んでみても示唆に富む。個人的には、「この老科学者の世迷い言を読んで…」という最後の一節に、思わず笑みをもらしてしまう。
出所 寺田寅彦「科学者とあたま」池内了編『科学と科学者のはなし』(岩波少年文庫、2000年)に所収
寺田の親しい老科学者曰く、科学者は「『あたま』がよくなくてはいけない」という一方でまた、「あたまが悪くなくてはいけない」という、二つの命題があるという。いわゆる頭のいい人は、足の速い旅人のようなもので、先に到着地に行くことができるが、途中の道端や脇道にある肝心なものを見落とす恐れがあるし、富士山の裾野まで来て頂上を眺めただけで、全体をのみこんで東京へ引き返す。頭の悪い人は、足が遅いかもしれないが、道の途中にある肝心なものを拾っていく場合があるし、富士山は登ってみなければその高さや、そこからの東京の景色はわからない。つまり、科学的研究に従事する者には、常識的に、ふつうにわかりきったと思われることでも、何かしらのおかしな点をみつけ、そして明らかにするために試行錯誤することが重要である、という。
もっぱら「タイパ(タイムパフォーマンス)=時間対効果」を重視するいまの若者は、AIやさまざまな検索ツールを使って事例や資料を調べる様子をみていると、皮肉でも何でもなしに、頭のよい人たちだと思う。しかしそれだけでは、とも思う。誰でも調べれば、たくさんの情報にアクセスできる時代だからこそ、何かしらのおかしな点をみつけ、そして自分なりに問いを立てて解明するために「試行錯誤する」ことの重要性が増しているのかもしれない。
なお、寺田のいう科学者は、主に自然科学の文脈であるが、これを「社会科学」に置き換えて読んでみても示唆に富む。個人的には、「この老科学者の世迷い言を読んで…」という最後の一節に、思わず笑みをもらしてしまう。
出所 寺田寅彦「科学者とあたま」池内了編『科学と科学者のはなし』(岩波少年文庫、2000年)に所収
PROFILEプロフィール
-
野村 実 講師