子どもを育てる親を支える

保健所での乳幼児の発達相談に関わっている。子どもの発達はさまざまだと改めて感じている。1才ぐらいで独歩ができるようになる、「まんま」などの初語が出るという発達のマイルストーンが言われているが、個人差がある。行動面に特異的な発達が見られる幼児にもよく出会う。相談場面で、親からは、かんしゃくが多い、外出先でじっとできないので買い物に連れて行けない、絵本に興味をもってくれない、遊びが止められないなどを聞く。一方で、ブロックや工作が大好きで親よりも上手なこともあるなどを聞く。親は、自分の子どもの発達の遅れなどに気づき始めた段階から、ストレスを抱える。近年はインターネットの利活用の高さから発達障害の情報が入手しやすくなり、相談機関へアクセスしやすくなったが、反面、親の不安をより強くすることもある。専門家から子どもの発達の遅れ等について説明を受けたとき、大きなショックを受ける。「受け入れられない。」「なぜ私の子どもだけが?」「自分のせい?」など、一時的に子育てのエネルギーを失ったりネガティブな思考になったりする。この時期の周囲の支えは不可欠である。子どもの障害等に対する受け入れ方は,それぞれの親で異なる。少しずつ気持ちが落ち着き、子育てに意欲が出て親自身できることが増える。「こんなことができるようになった。」など、子どもの発達や療育の効果を実感することも親の心理的回復を支える。 

発達障害等の子どもの親への支援は大切である。親への支援は、子どもの状態の理解を進めるだけではなく、子育てする上での安心感や自己肯定感を生み出し、家族の安定的な生活を支えることにつながる。「こども家庭庁」がスタートした。子どもや子育てをしている人の目線に立った「こどもまんなか社会」を目指した政策により、親子への途切れない支援がなされることを切に願う。


PROFILEプロフィール

  • 井上 和久 教授

    【専門分野】
    特別支援教育

    【研究領域・テーマ】
    障害のある子どもの早期発見・早期支援/早期からの支援の継続方法/学校等における支援システム