大谷大学文藝コンテスト

【小説部門】受賞作品

最優秀賞

沙瑛、大好き
諏訪 若奈/滋賀県立石山高等学校 第2学年

講評
導入部のみずみずしい情景描写から自然に引き込まれて、そこから展開していく物語への予感に心が動いていく。波の浸食によって磨かれ、美しい輝きを見せる、シーグラスの喩えが美しい。それが時の経過も表している。この構えも見事だ。
そして、時を超えた回想、タイムスリップへの導入も自然で読者をやわらかく夢幻譚へと誘っていく。限られた字数の中で、シーンを鮮やかに変化させていく手法にも感嘆した。複雑になりがちな構えにもかかわらず情景描写を感情描写が、まさに水の流れのように調和して味読できる。一気に読ませる文章力とともに、心から感動した。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎) 

優秀賞

私たちのヒトの終わり方
佐藤 雪揚/明誠高等学校 第2学年

講評
西暦8000年の世界。そこではすでに人間は絶滅し、ヒト型AIが支配していた。そして「最後の人間」として凍結睡眠していた私が、蘇生したという想定。そこで主人公は、この世界を存続させるか終わらせるかの選択と判断を託される。物語の構えを語るだけで言葉は、多く費やされている。
テーマは、ある意味で深刻で複雑な哲学的な命題をはらんでいる。それに挑んだことは評価できる。ただ、哀れや不安、危機意識など、現在から見た未来への展望も語りつつ、テーマをさらに深く彫っていく思考の投げかけと、わくわくするような物語の展開があればと強く感じた。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)

大谷文芸賞

十八歳駅
白永 穂美/サレジアン国際学園世田谷高等学校 第3学年

講評
未だ幼い「少女」は、これからの人生の目的地を自分で決めなければならない。人生を駅のホームと電車で表現した点は見事で、作者の人生への考えもしっかりと盛り込めていた。第三人称の丁寧な語りからはやや童話チックな印象を受けるが、それがこの作品の独特な空気感と合っていて引き込まれる。
しかし作品の最後が少し残念な印象を受けた。老婆が未来の少女である必要性と物語の結末部分がやや冗長気味になっている点が気になってしまう。この作品の静かで前向きな空気感を保つ為にこの辺り工夫すればさらに良い作品になると思う。
(学生サークル 大谷文芸)

佳作賞

滝ちゃんの恋は多様性
斉藤 里穂/兵庫県立伊川谷北高等学校 第3学年

紡ぐ
師岡 杏奈/筑紫女学園高等学校 第3学年

最後の花火
比嘉 結菜/筑紫女学園高等学校 第1学年

総評
佳作賞の三篇ともにテーマは多彩で面白く読んだ。作品の優劣に他篇との差はない。
『最後の花火』は、故郷の花火を題材にそれにまつわる様々な感懐がよく描けている。都会と田舎、家族、友情、故郷憧憬、幼年の記憶など様々な情景と思いが重なりカラフルな語りにひきこまれた。『紡ぐ』は、博多織という地域に培われた伝統工芸について綿密に調べ上げて書かれていることがよくわかる。書く以前の丁寧な準備に感嘆した。小説としての感興(ドラマ)があればさらに読ませる展開になっただろう。『滝ちゃんの恋は多様性』で描かれた世界は、現代的でポップではずむように語りが展開していく。とても楽しく読んだが、書き手が立っている心の地点と視点がよく見えてこなかった。ただ、深さよりも軽快さを求めたリズムとテンポは魅力いっぱいだ。
今回は、とくに「虚構を描いてリアルか」、「実体験の実感を描いてイマジネーティブか」という基本的な尺度をもって作品の丁寧な味読に心がけた。
(詩人・文藝塾セミナー講師/萩原 健次郎)