2016年度 大谷大学文藝コンテスト/受賞作品
2016年度 第4回大谷大学文藝コンテストにおきましては、全国からエッセイ部門367作品、小説部門230作品が寄せられました。多数のご応募ありがとうございました。
【高大連携推進室】
審査委員長によるコンテスト総評
【エッセイ部門】受賞作品
最優秀賞
視線 | 廣瀨 亮太 日本文理大学附属高等学校 第3学年 |
優秀賞
母の愛の味 | 金山 莉央 甲南女子高等学校 第3学年 |
こちら、日の出郵便です。 | 松島 智世 広島県立竹原高等学校 第3学年 |
大谷文芸部賞
美味しい理由 | 佐々木 優華 平安女学院高等学校 第2学年 |
奨励賞
ある小さな蜘蛛の目的論考察 | 勝川 東 二松學舎大学附属柏高等学校 第3学年 |
黒子 | ※ ※受賞者本人のご希望により、氏名・学校名の掲載は控えさせていただきます。 |
父の一手間 | 石井 日奈子 成城学園高等学校 第2学年 |
しゃっくり | 𠮷田 尚典 静岡県立焼津水産高等学校 第3学年 |
カメの搭乗手続き | 酒井 朝子 三重県立いなべ総合学園高等学校 第3学年 |
姉の恋人と対面するまでの話 | 荒木 花清 神戸市立兵庫商業高等学校 第2学年 |
【小説部門】受賞作品
最優秀賞
ピンチサーバー | 富士登 湖雪 茨城県立並木中等教育学校 第5学年(高校2年生) |
優秀賞
僕たちを結ぶもの | 山口 友梨乃 獨協埼玉高等学校 第1学年 |
無用の感性とその末路について | 中尾 ひより 愛知県立愛知商業高等学校 第2学年 |
大谷文芸部賞
世界のいろ | 亀田 帆乃花 立命館守山高等学校 第3学年 |
奨励賞
あなたの星へ | 姫野 友梨香 駿台甲府高等学校 第1学年 |
夏とバニラアイス | 藤原 璃央菜 長野県屋代南高等学校 第3学年 |
淡い太陽 | 黒部 裕真 東大寺学園高等学校 第1学年 |
春夏秋冬の終わり | 大谷 紗永 島根県立出雲高等学校 第1学年 |
プレゼント | 金子 拓未 広島学院高等学校 第2学年 |
カエルの歌 | 千德 さつき 福岡県立城南高等学校 第1学年 |
【エッセイ部門】講評
株式会社PHP研究所 常務取締役
文藝塾セミナー講師
安藤 卓
文藝塾セミナー講師
安藤 卓
【最優秀賞】視線
思春期の少年にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好を揶揄することを「中二病」というらしい。自分もそうだったと過去を振り返り、他人からの視線が怖かった、仲のよい友だちとも顔を見て話せなかったと告白する。それは被害妄想とわかっているが、高3のいまでも抜け出せない。しかし、そんな自分を認めることが自分らしさだと気づく。自分と素直に向き合い、前向きに生きようという意志を感じさせる展開に引き込まれた。起承転結の構成力が見事で、リズム感もあり、文章の完成度は高い。
【優秀賞】母の愛の味
幼いころ卵アレルギーだった状態の表現力が巧みであり、とくに初めて知った漢字が「一」ではなく「卵」だったという一文は秀逸である。卵アレルギーを持つ娘に母がどれだけ工夫して料理をつくってくれたか、その愛のかたちも具体的で、情景が浮かび上がってくる。母が初めて焼いてくれたたこ焼きが塩辛かったにもかかわらず、食べたい一心で「おいしい」といって食べ続けたシーンも微笑ましい。読み手の五感に響く文章であり、豊かな感性を持っている。
【優秀賞】こちら、日の出郵便です。
書き出しから引き込まれた。1月1日、自ら郵便屋さんとなって、手作りの年賀状と飴を友人たちに手渡し、感謝の気持ちを伝える。経験しないと書けないユニークな題材である。年賀状は柄も飾りもすべて変えるというこだわりや、年賀状を配って歩く過程で出会う人々の表情や景色など、一連のプロセスを丁寧に書き込む描写力に秀でており、読んでほのぼのとした気持ちにさせてくれる構成力も見事だ。なぜ今年で最後なのか、審査員たちのあいだで盛り上がった。
【奨励賞について】
自分と向き合った作品、観察力に優れた作品、家族の愛を描いた作品など、いずれも読みごたえがあり、優秀賞に劣らぬレベルだった。ただ、テーマの掘り下げが甘かったり、起承転結の構成に難があったり、句点や改行が少なかったりなど、文章の完成度の点で審査員の評価が分かれてしまった。読み手に伝わる文章とは何か、読みやすい構成や独創的な表現とは何かを追究してほしい。また、自分が書いた文章を客観的に見直す訓練も積んでほしい。何度も推敲を重ねれば格段によくなったのではと思う作品もあったので、今後に期待したい。
【小説部門】講評
詩人・文藝塾セミナー講師
萩原 健次郎
萩原 健次郎
【最優秀賞】ピンチサーバー
人と人の間に流れる感情の機微は、時に細く淡く、不確かなものである。それであるから確かに伝わった時、美しくなる。強くなる。愛情も友情もそうだろう。その心の有り様を確たる形で描くことは難しい。言葉でならばどうか。小説は、独りが創りだす「喩(たと)え」である。本作では、それがバレーボールの形に仮託され描かれているように読める。気持ちの流動が、自然な口語を交えて描出され読後の印象が鮮やか。
【優秀賞】僕たちを結ぶもの
冒頭部の「市川啓太、死んだらしいよ」という一行から感興が加速度を増す。この語りのリズムは、心地よい。途中挿まれる「冒険」という逸話も何気ないできごとであるが、細部までていねいに書かれていて不思議なリアリティを感じさせる。景物の描写、見る物、聴こえる音、微細に揺れる心情の表出を読めば、作者が日頃から記述の鍛錬をしていることがわかる。ただ、結びの部分が感傷的に流れて薄い。絆の正体はもっと描けたはずだ。
【優秀賞】無用の感性とその末路について
作品の題名は重要である。題は、描こうと意図した作品の根をつつみこむ。その点にまず不足を感じた。空想、寓意の昇華は見事に一篇の作品で成立している。「試験」というシステムに翻弄される、理不尽な評価軸は、私たちの「生」の根拠までも揺るがすといった現実社会への批評性が、よく描けている。無情と怒りの表出が寓意を越えて切実に伝わる。批評性を織り込むのであれば、あと少しテーマをほぐして書き切って欲しかった。
【大谷文芸部賞】講評
大谷文芸部(学生サークル)
【エッセイ部門】美味しい理由
チュロスが書き手にとって、どれだけ特別なのかがよく分かりました。ただ、特別な場所という映画館などが、何度も文中に出てきていたのは少し整理した方が良いかもしれません。美味しいものを美味しく食べられる場や友達がいるというのは幸せであると心から思いました。
【小説部門】世界のいろ
キャラクターがイキイキとしていて可愛かったです。特に少女の色についての考え方がませていて、より魅力的になっているように感じました。欲を言えばオレンジやみずいろだけでなく、もっと他の色も色鮮やかに書けたら良かったのではないかと思います。