大谷大学文藝コンテスト

2017年度 大谷大学文藝コンテスト/受賞作品

2017年度 第5回大谷大学文藝コンテストにおきましては、全国からエッセイ部門397作品、小説部門131作品が寄せられました。多数のご応募ありがとうございました。
【高大連携推進室】 

審査員からのメッセージ

 うまい、とにかくうまい。これが高校生の作品だろうか。頼もしく、嬉しくなる。読書量を想像するに難くない。見事だ。ひとつひとつ丁寧に言葉を紡ぎ原稿用紙に置く。悩み、苦しみ、推敲し、格闘する姿は美しく輝く。文章は積み重ねた人生が編み出し響くものだ。まだ若くてこれだけの言葉を綴る力は見事。感動した。力は、読書を重ね、生きた作品に出合い、支えられて伸びる。文芸を目指す高校生の皆さんには、たくさんの本を読み、多くの人生に出会い、経験を重ね、悩み、原稿用紙と格闘してほしい。その時、思いや、主張が美しく響く文章になるだろう。私はそんな作品を期待し、楽しみにこの事業に参加したい。
 
一般社団法人 言の葉協会 専務理事 宮脇 一徳 

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

 音楽と読書  齋藤 淑人

新潟県立長岡高等学校
第2学年

優秀賞

幸せはいつも自分の心が決める 長澤 いのり

東京都立国分寺高等学校
第3学年
緑の訪問者 内倉 一綾

神戸市立神港橘高等学校
第1学年
 

大谷文芸部賞

心の支え 中山 舞香

広島県立大門高等学校
第3学年
 

奨励賞

傘を差さない日 中原 遥

北海道札幌旭丘高等学校
第1学年
嘘つきの証 堀江 光結

岩手県立花北青雲高等学校
第3学年
僕の自由、君の自由 浦野 穂乃佳

神戸市立神港橘高等学校
第1学年
人生を変えた出会い 妙嶋 紀乃

神戸市立神港橘高等学校
第1学年
坊主 川畑 昂輝

鹿児島県立大島高等学校
第3学年
 

【小説部門】受賞作品

最優秀賞

該当なし  

優秀賞

ひと夏の記憶 横山 詩乃

奈良県立奈良高等学校
第2学年
卒業 梁木 みのり

筑紫女学園高等学校
第3学年
駆ける 岡崎 風香

筑紫女学園高等学校
第1学年
 

大谷文芸部賞

九つの約束 阿賀谷 匠馬

奈良県立郡山高等学校
第1学年
 

奨励賞

彩りの桃 福嶋 佳穂

岩手県立久慈東高等学校
第3学年
燃えろ、雪 堀江 光結

岩手県立花北青雲高等学校
第3学年
色味 大崎 莉奈

岩手県立福岡高等学校
第2学年
特別ということ 泉山 ゆい

岩手県立福岡高等学校
第1学年
写真 木下 歩花

宣真高等学校
第3学年
夢航路 田口 恵都

筑紫女学園高等学校
第2学年
 想い 川邑 葵

筑紫女学園高等学校
第1学年 

【エッセイ部門】講評

株式会社PHP研究所 常務執行役員
安藤 卓

【最優秀賞】音楽と読書

 声変わりがきっかけで音楽が嫌いになり、友だちとも距離を置き、学校の図書室に引きこもる。そこで言葉という新たな友だちを見つけるが、しだいに読書の意義を見失う。そんなとき父親からもらったギターによって疎遠だった音楽と再会し、歌詞に込められた言葉の奥深さに気づく。ここで初めてタイトルの意味を明かす文章力は秀逸であり、音楽と文学の関連性もわかりやすく表現している。「句読点がリズム」「音楽は時代の目次」等、豊かな感受性と深い考察力を感じさせる言葉が随所にあり、完成度は高い。

【優秀賞】幸せはいつも自分の心が決める

 中学生のときに先生から教えてもらった好きな言葉が、高校3年生のある出来事から重荷に感じるようになる。それは自分で決めた選択を後悔したから。しかし、ここから自問自答が始まる。なぜ?をたくさん問いかけることで後悔の理由を明らかにし、過去に執着していた自分を発見する。心の変化を冷静に分析する表現力は巧みであり、マイナス思考からプラス思考へ変えていく心の成長もよく描けている。全体的に文章が作文っぽい(解説的)ので、文体や表現方法に工夫を凝らすことも試みてほしい。

【優秀賞】緑の訪問者

 元旦の夕方、家族が団欒中に突然現れた訪問者……いったい何者なのか?と読み手の想像を掻き立てる構成がみごとだ。すぐに母親が飼い主を探すが見つからない。名前をつけたくても我慢するのだが、しだいに愛おしくなってきて、貼り紙には「なるべくゆっくり迎えに来て下さい」と記す。ひとつのエピソードを簡潔に描きつつ、生き物への愛情や家族のコミュニケーションも書き込んであり、読み手がその場に家族の一員としているような錯覚に陥った。タイトルのつけ方も抜群の感性といえる。

【奨励賞について】

 部活や受験など身近なテーマを扱った作品や、前髪や坊主など自分の髪型を扱った作品など、高校生ならではのほほえましい作品が多かったが、もっとテーマを深く掘り下げたら、書く内容に奥行や広がりが出たのではないか。自分が思ったことをただ文章にするのではなく、何度も読み直してみる。できれば声に出して読み直してみる。すると、平凡な言葉やありきたりの表現が多いことに気づくはず。勝負はそこからだ。読み手により伝わる言葉や表現を探したり、読み手が思わずハッとする(ニタっとする、ウーンと唸る、目頭を熱くするでもよい)構成や表現方法を用いたり、読み手が知らない世界に誘ったり、読み手が膝を叩く結末を用意したりと、さまざまな創意工夫に挑戦してみてほしい。自分の創造性や感性を最大限に発露する快感こそエッセイを書く楽しみなのだから。
 最後に、字数の条件(2,000字、5枚以内)について、やはり字数が少ないと内容が浅薄になりがちなので、選考に不利に働く場合があることを付記しておきたい。

【小説部門】講評

詩人・文筆家/文藝塾講義 講師
萩原 健次郎

【優秀賞】ひと夏の記憶

 幽霊という喩(たと)え、それは、自己と他者という構図でとらえることができる。屋上という、禁止された領域も喩えなのかもしれない。そう読むと、作者の人との接触の姿勢が見えてくる。その温度や強度は、弱くはかない。現実なのだなあと納得する。心情として、よくわかる。本作のすぐれている点は、喩えとしての物語の構えの中に、作者が懸命に吐露しようとするリアリティがしっかり細部まで描けていることだ。仮構であったとしても、そこに真情が表れていなければ読む者に迫ってこない。

【優秀賞】卒業

 作中の会話が絶妙だ。高校生の日常的な時間がよく見える。誇張していないだけ、読む者の心に沁みこんでくる。卒業という、瞬間は、新しい旅立ちの時でもある。なにかを振り切れない哀惜の気持ちも満ちる。青春の一時期のさらに、切り取られた時間ではあるが、それがよく描けている。それは、人を求める恋情にも似た思いなのかもしれない。本作を読み終わった後に、彼方から望みの光があふれてくる。ただ、この他者を見つめ自らの心の内に溶解させる力を、もっと濃く描けないかと感じた。

【優秀賞】駆ける

 旅先での人力車夫との交流。ドラマの一場面のように、わずかな時間の情景がよく描けている。「駆ける」という題の言葉は、「駆け出したい」という作者の真情をまっすぐに表しているようで好感がもてる。作中の会話とそれを受けて挿まれた思いの描写が流れるように配置されて、自然によく読ませる展開になっている。中で、五百羅漢について語られているがこういう逸話の挿入も上手い。ただ、はじめに定めた話の構図にはまりすぎていると感じた。求めるならば、そこからはみだした作者の言葉を読みたいと思った。

【大谷文芸部賞】講評

大谷文芸部(学生サークル) 

【エッセイ部門】心の支え

 ボールペンに着目する視点に高校生らしい瑞々しさを感じました。また、使い切ったボールペンを集めることで自分の努力を肯定しようとする姿勢に好感が持てます。
 ボールペンの質感であったり、書き心地について触れていれば、筆者さんのボールペンに対する愛着がより強く表現できたのではないかと思います。
 ほんの些細なことを楽しみとすることで受験という闘いを乗り切れるというのは素敵なことだと思いました。

【小説部門】九つの約束

 登場人物のキャラクター性が確立されていて、活き活きとしているように感じました。また、作中の秋哉くんと馨さんの対話が読み手にも考えさせるところがあって、深みのある物語だと思いました。ただ、馨さんの仕事など設定において分からないところがいくつもあって、読んでいてモヤモヤとする点もありました。そうした不明瞭な点を修正すれば、より物語の世界に奥行きが生まれたのではないでしょうか。