三年ぶりの

私が所属している泉鏡花研究会では、年数回の研究会に加えて、年に一度、小説家泉鏡花ゆかりの地に研究者たちが集い、泊まりがけで研究例会と文学散歩をおこなっていた。ところが2020年の春例会がコロナ禍で延期となり、それから三年間は通常例会や大会もオンラインでおこなわれるようになった。

研究会のオンライン開催は、いざやってみると良いところもあった。例えば、以前は東京で開催されると前後の仕事のスケジュールの都合等で関西からは参加が難しいことも多々あったが、オンラインだとその開催時間さえ確保できれば参加することができる。そしてオンライン開催でも研究会後にZoomのルームに皆留まって、懇親会めいたこともおこなう工夫もしていた。自分はどちらかというとオンライン環境に順応している方だと思っていた。

だが、この春、三年ぶりに対面式の研究会が復活し、久しぶりに直接研究仲間たちと集ってみると、やはりネット通話だけでは埋められないものがあったことを実感せざるを得なかった。これは大学の授業がオンラインになったときにも感じたことであるが、廊下ですれ違いざまにちょっと声をかける、とか、ついでに隣にいた人にも確認する、とか、そういう日頃無意識にしていた交流が、オンラインだと意識的に働きかけないと実現しない。「意識的に働きかける」には手間や気力が要る。結果、これまでにない疲労が蓄積し、些細な交流が減った。そしてその些細な交流によって得られるものは存外大きかったのである。

三年ぶりに復活した対面式研究会では当日現地参加が難しい会員はオンラインで参加する新たな方式を取り入れ、そして二日目の文学散歩では春の美しい琵琶湖畔の風景を楽しみながら、そこに水を見下ろす聖なる場所という鏡花好みの地形があることを仲間たちと確かめ合う、かけがえのない時間を過ごすことができた。

PROFILEプロフィール

  • 安藤 香苗 講師

    【専門分野】
    国文学(近代文学)

    【研究領域・テーマ】
    明治期の文学/泉鏡花/文体論