2025年度文芸奨励賞 受賞作品/テーマ「命に寄りそう」
挨拶
大谷大学教育後援会 会長 岡田 克也
2025年度大谷大学教育後援会文芸奨励賞のテーマは「命に寄りそう」です。
初代学長の清沢満之は「生のみが我等にあらず、死もまた我等なり」と述べられました。現在、私は保育園と障がい者関係事業所の理事長、寺院住職を勤めています。日々、生まれてきたばかりの命から死にゆく命まで目の当たりにします。どんな命も与えられた命を全力で生きようとする姿に、まばゆいばかりの美しさ、尊さを感じます。命は儚いからこそ、生きている今が限りなく愛おしく思えるのではないでしょうか。しかし、人生には時に辛く悲しく苦しく、前を向いて歩けないような時もあります。その時に隣にいてくれた人に救われたのは私だけではないはずです。
今回は151作品の応募がありました。受賞されました皆様、誠におめでとうございました。受賞の有無に関わらず、日々の生活の中で、問い続け、学び続け、考え続けて、自分の言葉にしてみることの大切さを知る機会となったならば、とても嬉しいことです。
大谷大学での学びは、大学の授業の時間だけで終わるものではないと思っています。私は今でも約35年前の大谷大学での学びの日々が、今を生きる力となっていると感じています。ご応募いただきました学生の皆様、誠にありがとうございました。
講評
大谷大学 学生部長 上野 牧生
2025年度文芸奨励賞のテーマは「命に寄りそう」でした。このテーマの背景には、未だ戦火に巻き込まれているガザとウクライナの過酷な現実があります。その一方で、戦地から遠く離れた日本でも、戦時という筆舌し難い惨状とはまるで異なる形で、日常を落ち着いて過ごすことができない困難な現実があります。
今年度の文芸奨励賞には151作品の応募がありました。応募作の多くは、そうした現実のなかで、自分の目、あるいは自分の手が届く範囲で、「命」のあたたかさと手ざわりを──あるいはそれらの不在を──確かめようとするものでした。そうした確かめをとおして、命をあらためて受けとめなおそうとするものでした。
その「寄りそい」方はいずれも、いくぶん控えめで、穏やかなものでした。相手の真向かいに陣取り、「真正面からあなたに向き合います」と言い切るような傲慢さではなく、ふと気がつけば傍にいてくれるような、慎み深く、遠慮がちな寄りそい方でした。むしろそれが、本学らしいと言えるのかもしれません。
昨年度の講評にも記しましたが、大谷大学の文芸奨励賞は、人に見てもらうために、誰かに読んでもらうために記されるものではありません。誰よりも自身に向けて、己が目の前の現実にどう対峙しているのかを知るために記されるものだと、私個人は受けとめています。「命に寄りそう」ことを真摯に考えるとき、向き合うべきは自分自身──問い続けることの大切さと難しさを、大谷大学に学ぶ私たちは知っています。
2025年度 受賞作品 【敬称略】
最優秀賞
二宮 睦【文学部 哲学科 第2学年】
姉の腕の中で赤ん坊が小さな手を咲かせ、私の指をぎゅっと掴んだ。新しい命から何かをもらった気がした。
【選考委員からの講評】
こころが温かくなる作品です。生まれたばかりの赤ちゃんから何かをもらう。大人が与えるのではなく…。命には大人も赤ちゃんもなく、その重みはみんな同じ。お互いが対等に寄りそえるものなんですね。
こころが温かくなる作品です。生まれたばかりの赤ちゃんから何かをもらう。大人が与えるのではなく…。命には大人も赤ちゃんもなく、その重みはみんな同じ。お互いが対等に寄りそえるものなんですね。
優秀賞
源川 秀弥【文学部 真宗学科 第3学年】
人の命に寄りそう為には、自分を認めることが最優先だ。なぜなら、悪口は人との比較から生じるからだ。
【選考委員からの講評】
どうして人は悪口を言うのだろう。面白いから?余裕がないから?人は人、自分は自分、ひとりひとり違って当たり前です。他人との違いを認めること。自分に寄りそえない人は人にも寄りそえませんね。
どうして人は悪口を言うのだろう。面白いから?余裕がないから?人は人、自分は自分、ひとりひとり違って当たり前です。他人との違いを認めること。自分に寄りそえない人は人にも寄りそえませんね。
田口 琳久【文学部 哲学科 第3学年】
命の鼓動に耳を澄まし、消えゆく瞬間さえ抱きしめ、その儚さを愛でる勇気
【選考委員からの講評】
命が消えゆくのは悲しいことです。でも、命ははかないものです。だから大切です。そして、その一瞬一瞬を大切にする勇気も大切です。命に寄りそうことができる人は素晴らしいと思います。
命が消えゆくのは悲しいことです。でも、命ははかないものです。だから大切です。そして、その一瞬一瞬を大切にする勇気も大切です。命に寄りそうことができる人は素晴らしいと思います。
佳作
今井 亮裕【文学部 真宗学科 第4学年】
命はまるで磁石のよう。
意地を通せば弾き合う。
命はまるで磁石のよう。
わかり合えれば寄りそえる。
高嶌 虎太郎【文学部 真宗学科 第3学年】
たまには自分を甘やかしてもいい。我慢することがすべてじゃない。
灘尾 慧【文学部 真宗学科 第3学年】
誰かと比べなくて 良い。誰かに勝たなくても良い。
私たちは寄りそい合って生きているのだから。
古川 天梧【文学部 哲学科 第4学年】
命に寄りそうとは、正しさを語らず、ただ震える沈黙のそばに在ることかもしれない。
奥村 由幸【文学部 哲学科 第3学年】
悩みを打ち明けた友は、赤く濡れた瞳で無理に笑った。私はノートを閉じ、静かに隣で呼吸を合わせた。
柳生 颯愛【文学部 哲学科 第2学年】
一つの命には
一つの物語がある
物語は人と出会うごとに紡がれていく
私は幾つの物語に登場できるだろうか
古庄 華月【文学部 歴史学科 第3学年】
頑張ってない人なんていない
今を生き抜く人に拍手を
悲しみは分けあって喜びに変わるまでそばにいるよ
管井 海七【文学部 文学科 第3学年】
数年ぶりに会った祖父はもう話せなかった。
祖父の声を思い出すことができない。
私は後悔に心を蝕まれた。
八田 穂花【文学部 文学科 第2学年】
隣にある笑顔も、
遠くにある涙も。
その想いに
寄りそうとき、
命はひとりではなく、
共にあるものだと気づく。
谷本 澄香【社会学部 現代社会学科 第3学年】
ほんのささやかなこと。毎日、訪れる朝に心から喜んでみて。
自分にも、人にも優しくなれるから。
門脇 右京【社会学部 コミュニティデザイン学科 第1学年】
生まれたから
しかたなく生きる。
そう言ってたあなたは
愛する人と
新たな命を抱いて、
前を向いて
笑っている。
樫尾 竜之介【社会学部 コミュニティデザイン学科 第1学年】
灯りのついた玄関で「おかえり」が返る、それだけで命がそっと抱きしめてくれる。
西川 みどり【教育学部 教育学科 第1学年】
息が詰まる夜、
人は1人だと思わされる
でも、どこかで似た夜を過ごす人がいる
きっと、人は独りじゃない
【選考委員からの講評】
家族や友人など身近な人の命、通勤や通学のときにすれちがう名前も知らない人の命、そして自分の命。私たちはいろいろな命とともに日常を生きています。誰かが側にいてくれるから安心して生きられるんですね。そんな場面を切り取った作品が集まりました。
家族や友人など身近な人の命、通勤や通学のときにすれちがう名前も知らない人の命、そして自分の命。私たちはいろいろな命とともに日常を生きています。誰かが側にいてくれるから安心して生きられるんですね。そんな場面を切り取った作品が集まりました。

