文芸奨励賞 受賞作品

2024年度文芸奨励賞 受賞作品/テーマ「乗りこえる」

挨拶

大谷大学教育後援会 会長 岡田 克也

 2024年度大谷大学教育後援会文芸奨励賞のテーマは「乗りこえる」です。

誰もがとても乗りこえられないと思われるような大きな壁にぶつかる時が人生において何度か起こると思います。

 今年1月1日に起こった能登半島地震では、大切な人を失い、住む家を失い、深い苦悩を抱えて生きる方がたくさんおられます。9月の豪雨災害が追い打ちをかけ、地震の災害から復興のために頑張って来た人たちの心が折れていると言われます。

 それでも10月に行った能登の地区では、夜は仮設住宅に泊まり、昼は自宅のある地に赴き、ボランティアの方々と共に泥を掻き出し、いつか地元に帰れる日のために懸命に生きておられました。
 学生の皆様も、心が折れることも、挫折することもあることでしょう。しかし、それぞれが懸命に乗りこえようとされていることを応募作品から知ることができました。
 今回は192作品の応募がありました。受賞されました皆様、誠におめでとうございました。
 今回の選定は、お二人の先生と私で話し合って選定させていただきました。たくさんの素晴らしい作品がありましたので、もしも他の方が選定されていたら、また違う結果になったかもしれません。
 受賞の有無のみでなく、これからも問い続け、学び続け、自分で考えて、自分の言葉にしてみることの大切さを知る機会となったならば、とても嬉しいことです。
 応募いただきました学生の皆様、誠にありがとうございました。 

講評

大谷大学 学生部長 上野 牧生

 2024年度文芸奨励賞のテーマ「乗りこえる」は、まさしく今年を象徴する主題となりました。元日に発生した能登半島地震、そして再び被災地を襲った9月の豪雨。震災の苦境に追い討ちをかける更なる災害と困難に、現地の方々から「心が折れた」との声が聞かれました。被災地の真っ只中で奮闘している大谷大学の仲間もいます。私たちの目の前には、そう易々と「乗りこえる」ことができない現実があります。

 今年度の文芸奨励賞には192作品の応募がありました。その内容はいずれも、何かを「乗りこえた」との達成感を記したものではなく、一人ひとり、各自が置かれた状況に対峙し、いままさに「乗りこえよう」としてもがいている現実を記したものでした。あるいは、自身にとって「乗りこえる」ことがもつ意味を別の角度から捉え直し、新しい視点を得ようとするものでした。

 大谷大学の文芸奨励賞は、人に見てもらうために、誰かに読んでもらうために記されるものではなく、誰よりも自身に向けて、己が目の前の現実にどう対峙しているのかを知るために記されるものだと、私個人は受けとめています。乗りこえるべきは自分自身、向き合うべきは自分自身−−問い続けることの大切さと難しさを、大谷大学に学ぶ私たちは知っています。

2024年度 受賞作品 【敬称略】

最優秀賞

細川 興【文学部 真宗学科 第1学年】

 逃げたっていい。
 眼を逸らさなければ
 悩み、考え続けたら。
 その距離が乗りこえるための
 助走になるから。
【選考委員からの講評】
今は無理をして挑まなくてもいい。周囲からは逃げているように見えるかもしれないけれども、そんなことは気にしない。目標から目をそらさずに悩んだり、考えたりした時間が乗り越えるための助走になる、そう表現した点がすばらしいと思います。真剣に悩み、考えることは必ず将来飛躍するための糧になるはずです。 

優秀賞

今井 亮裕【文学部 真宗学科 第3学年】

 乗りこえるってどんなこと?
 世界を創りかえること?
 いいや、きっとそうじゃない
 自分を見つめなおすこと!
【選考委員からの講評】
「乗りこえるってどんなことなのか」、そう問いを立てたときに、視点を周囲にではなく、自分自身に向けるのは容易いことではありません。私たちはどうしても周囲に答えを求めてしまいがちです。自分自身を見つめなおし、変わっていく。それが何かを「乗りこえる」ことに繋がるという視点がすばらしいと思います。 

藤原 綺奈【国際学部 国際文化学科 第2学年】

 いままで私はたくさんの手を借りてきた。
 これからも多くの手を借りて乗りこえていく。

【選考委員からの講評】
 「インターディペンデント」という言葉があります。「相互依存」を意味する言葉ですが、この作品ではそのことがわかりやすく表現されています。人はひとりで生きているのではなく、誰かの力をもらいながら、もちろん時には誰かの力になりながら、お互いを生かし合っている。そう自覚できているのはすばらしいことです。

佳作

藤山 亜弓【修士課程 仏教学専攻 第2学年】

 異なる「当たり前」と対立し
 自分のありようが揺れ動く
 その違和感を拒まずに
 己の正義を越えてゆけ

横山 慧秀【文学部 真宗学科 第3学年】

 地震で打撃を受けた自坊
         地元から立ち去る人の姿
 抱えている不安は多い
         だが私は前に進む
       未来のために

西森 真喜【文学部 歴史学科 第3学年】

  誰もが、あの日を後悔する。
  戻らない時間に囚われる。
  今を変えることだけが、あの日を私に超えさせる。

林 杏果【国際学部 国際文化学科 第3学年】

 乗りこえるとは、逆境からの回復力ではなく、過去の
 自分を抱えて共に歩むことである。

岡田 遊快【文学部 文学科 第2学年】

 助走したほうが、
 高く跳べる。
 乗りこえるために、
 今は勢いをつける時間。

田原 大智【文学部 真宗学科 第1学年】

 もう会えないあなたを想って
 何度涙を流しただろう
 もう会えないあなたを想って
 何度勇気を出しただろう

窪田 温【文学部 哲学科  第1学年】

 めくられたカレンダーは
 毎日を乗り越えた証って言えたら

桐山 愛生【文学部 文学科 第1学年】

 姉と比べられた。
 私たちは全くちがう人間なのに。
 他人を気にせず個性を出して
 乗りこえると心に誓った。

平 悠斗【文学部 文学科 第1学年】

 「初めまして」
 この一言で
 私は友を一人得た

近藤 愛唯【国際学部  国際文化学科 第1学年】

 一限目    
   眠い目こすり
    乗りこえる
【選考委員からの講評】 
テーマは「乗りこえる」でした。
最優秀賞の作品同様、今を高く飛べるよう「勢いをつけるための時間」と表現する作品がある一方で、佳作に選ばれた作品は、具体的に何かを「乗りこえる」ことについて述べたものが多かったように思います。たとえば「乗りこえる」対象が、「周囲の当たり前」、「地震でうけた打撃」、「もう戻らない時間」、「過去の自分を受け入れること」、「もう会えないことの悲しみ」、「過ぎていく日々」、「姉との比較」、「初めてのひとに声をかける勇気」、「授業での睡魔」などといろいろでしたが、それぞれの作品が自ら体験したことを通して考えたこと、感じたことをわかりやすくかつ上手く表現されていました。実感が伴ったある作品には説得力が生まれます。