大谷大学文藝コンテスト

2018年度 大谷大学文藝コンテスト/受賞作品

2018年度 第6回大谷大学文藝コンテストにおきましては、全国からエッセイ部門1,074作品、小説部門178作品が寄せられました。多数のご応募ありがとうございました。
【高大連携推進室】 

審査員からのメッセージ

 エッセイ部門、小説部門の審査が始まった。まさにドキドキ、ワクワクしながらこの日を待っていました。作品を何度も何度も読み返し、作者の狙い、思い、こだわりを感じ、その悩みや、感動、苦しみ、あるときは悲しみ、またあるときは喜びをくみ取りながら読み進めてきました。
 読んでいるうちに思わず「涙があふれていた」そんな作品にも出会いました。とても素晴らしい力のある作品でした。作者の不断の緻密な観察力や取材が生き生きと、そして大胆かつ繊細に描写され、作品に光が当たり、命が吹き込まれていました。そんな幅の広い、奥の深い作品に出会うと、これからの成長がとても楽しみになります。
 作品の中には主格の位置や構成が曖昧で、主語がころころ移動するような残念な作品もありましたが、全体に文章力、主張、作者のアイデンティティが生きた素敵な作品に仕上がっていました。もっともっと、悩み、戸惑い、苦しみ原稿用紙と格闘し、一語一語の言葉を紡いでいるような作品があふれ、飛び出してくることを大いに期待しながら皆さんの作品をお待ちしています。
 
一般社団法人 言の葉協会 専務理事 宮脇 一徳 

【エッセイ部門】受賞作品

最優秀賞

該当なし  

優秀賞

笑うすみ鬼 笠井 太郎

岩手県立盛岡第三高等学校
第2学年
ホットココアを飲みながら 中西 桜

私立済美高等学校(愛媛)
第2学年
僕とオカンと、ときどき他人 細川 成弥

岡山県立岡山城東高等学校
第2学年
 

PHPエッセイ賞

おばあちゃんへ 大谷 未帆

島根県立松江東高等学校
第3学年
 

大谷文芸賞

今を精一杯生きてるよ 眞野 翔

私立須磨学園高等学校
第2学年
 

奨励賞

小さな変化 松本 裕紀子

私立慶応義塾湘南藤沢高等部
第2学年
偽りの入道雲 川島 玲

国立名古屋大学教育学部附属高等学校
第2学年
悩みが武器に変わった瞬間 坂本 由

私立須磨学園高等学校
第2学年
『ケテ講座』から学ぶ。 村瀬 萌香

私立須磨学園高等学校
第2学年
「泣く」ということ 山崎 くるみ

私立須磨学園高等学校
第2学年
 

【小説部門】受賞作品

最優秀賞

雪解け 吉田 武尊

私立函館ラ・サール高等学校
第3学年
 

優秀賞

 真似男 川島 玲

国立名古屋大学教育学部附属高等学校
第2学年
 海音 平 一葉

私立筑紫女学園高等学校
第2学年
 

大谷文芸賞

K様の失踪 下條 滉太

私立春日部共栄高等学校
第1学年
 

奨励賞

重なり合う世界の中で 植木 麻衣

伊勢崎市立四ッ葉学園中等教育学校
第5(2) 学年
好意症 辻 桜子

私立高知学芸高等学校
第2学年
見て 岡崎 風香

私立筑紫女学園高等学校
第2学年
緒方 杏里

私立筑紫女学園高等学校
第2学年
大人の悩み 熊谷 美咲

私立筑紫女学園高等学校
第2学年
ムジョウ 田口 恵都

私立筑紫女学園高等学校
第3学年

【エッセイ部門】講評

株式会社PHP研究所 常務執行役員
安藤 卓

【優秀賞】笑うすみ鬼

 修学旅行で訪れた法隆寺の五重塔で見つけた四体の魔よけの鬼。どれも歯を食いしばって重い屋根を支えているが、よく見るうちに、一体だけ笑っているような鬼がいる。なぜ笑っているのか。修学旅行から帰っても、頭の隅から離れない。あるとき妹に話したら、意外な回答に驚きつつ納得する。同級生も気がつかなかった鬼に光を当てた観察眼はユニークで、文章も巧み。できれば、妹の答えで終わりではなく、鬼が笑っている理由を解明してほしかった。

【優秀賞】ホットココアを飲みながら

 進学校に進んだがための勉強中心の生活。塾にも通い、心の余裕が持てない日々が続くなか、修学旅行で訪れたディズニーランドでいままで味わったことのない幸福感に浸る。その感動を、忙しく働く母親にも味あわせたい。しかし、母親から返ってきたのは意外な言葉だった。行きたいけど、行けない現実がある。なぜ母親は休みも取らず働いているのか。その理由を知ることで、母親の苦労を垣間見る。母親との会話から、自らの心の成長を描いた構成が見事。

【優秀賞】僕とオカンと、ときどき他人

 スーパーのバイトから帰宅したオカンの愚痴を聞くのが日課になっている僕。ところが、ある日、オカンの口から出たのは、愚痴ではなく、お客に感謝された話だった。それを聞いた僕も、同級生の女の子から親切だと誉められたことを思い出す。オカンの行動も僕の行動も、人のために動いたことにある。そしてみんなが親切な世の中になるための考えをオカンにぶつけたら……。ラジオというキーワードを絶妙に配置した、ユーモアあふれるエッセイである。

【PHPエッセイ賞】おばあちゃんへ

 父の伯母がもう長くないので、父と一緒に老人ホームに向かうが、顔も覚えていないため、何を話していいか不安な思いに駆られる。しかし、別れ際に「ありがとう」という言葉をかけられたことで、一人で会いにいくようになるが、しだいに会話が困難に。最後の言葉は聞き取れず、介護士さんが教えてくれたが、それは答えに窮するものだった。おばあちゃんの表情や会話を通して自分の心の状態がよく描けており、家族とは何かをも問いかける秀作。

【奨励賞・PHPエッセイ賞について】

 奨励賞と優秀賞の分かれ目は、「エッセイ」なのか「作文」なのかという判断が働いた部分もあった。自分の体験を時系列で綴ったうえでそこから何か教訓を得たというような構成にすると、どうしても「作文」の体裁になりやすい。エッセイの醍醐味は、決まった文章形式がないことであり、個性豊かな表現、ユニークな文体、あっと驚く展開、読者を裏切る結末など、自由な表現形態にある。それを押さえたうえで、審査員をうらなせるような作品を書いてほしい。
 また、今年度から新設されたPHPエッセイ賞は、優秀賞受賞の候補作品の中から、『PHP』誌の読者層を考慮したうえでPHP編集部のスタッフたちの意見も参考にして選んだものである。ただし、月刊の『PHP』誌には紙幅の余裕がないため、受賞作品は『PHP』増刊号に掲載させていただく予定である。

【小説部門】講評

詩人・文筆家/文藝塾講義 講師
萩原 健次郎

【最優秀賞】雪解け

 審査で多くの方が高評価した作品。病に倒れて病床にある中年の高校教師が主人公で一人称で書かれている。話の背景を綿密に描き、挿れた会話も実に効果的に無駄なく配されている。作者の親世代の心象が、鮮やかに記されている。生死の境目にある主人公が延命措置の選択をするという深刻な内容だが、卓越した話法がむしろ清々しい読後感を残す。小説は、自らの体験に根差したものであっても完全な虚構を紡いだものであっても、記述の切実さが、作品の力となる。その切実さが一篇に凝縮されている。

【優秀賞】真似男

 「嗚呼、兵長殿、兵長殿」の書き出しが妙で、引きこまれる。この妙は、読み手に展開を期待させる。作者も展開を楽しみつつ書いているのがよくわかる。これは小説の醍醐味である。書き慣れた筆力が十分伝わってくる。「ダイコン姉さん」や「ゴーゴーじいさん」といった登場人物の名づけも愉快だ。こうした軽妙な語りが大部分を占めているが、終盤になって、日系移民の強制収容所の話であったことがわかってくる。書き出しの妙が解かれていく。この解き方が少々乱暴に感じられる。妙味が本質ならば、貫いて欲しかった。

【優秀賞】海音

 色や音を言葉で再現して描くのは容易くない。それは目に見えない抽象だからというだけではない。比喩が薄くありきたりになってしまうからなのだろう。本作では、音を描いている。その音が、旅先での光景に溶けている。聴覚過敏症の「私」が主人公。作品では様々な音が聴こえる。自身の体験に根差して書かれたのかそれはわからない。ただ、読み手を、その体験に密着させるほどの描写に力がある。丁寧でまっすぐな記述に好感が持てた。ただ、「私」に語りの軸が偏りすぎて、小説という想像の広がりを抑えてしまっている。

【奨励賞について】

 異次元の交流をファンタジーに昇華した作品。複雑な心情吐露があざやかな心理小説仕立てのもの。綿密な描写で世相を描いた時代小説など、どの作品も力作と言える。ただ、大別すると、「読みやすい」か「読みづらい」の二つに分かれてしまう。読みやすいことは、そのまま優れているとは言えない。読みづらいと読み手にさらなる精読を求め、味読の深みを醸成するという利点もあるからだ。ただ、作品中の人称が定まらなかったり、登場人物の名に誤記があったり、指示代名詞が頻発する作品などは、優劣を定める価値以前の問題になる。せっかくの表現行為が、作者の文章を書くという単純な技術の域で、閉じてしまって、その先へ進めなくなってしまう。それだけではない。書くことの切実さや主題に託した真意、読み手に向けた説得力などの創作にかかせない肝心要の力が、無駄な記述によって減殺されてしまうのだ。小説とは、「内面のノンフィクション」であるならば、懸命であって欲しい。たとえ、奔放な虚構を創り上げるにしても。

【大谷文芸賞】講評

大谷文芸(学生サークル) 

【エッセイ部門】今を精一杯生きてるよ

 ラーメン屋や店長に対する「私」の愛着心が文章を通して伝わってきました。優しい店長との思い出とともに将来を前向きに生きようと決意する「私」の姿に、読み終わってから思わず応援したくなりました。店長の人となりについてもう少し掘り下げると、いかに店長が優しい人だったのかが読み手にもっと伝えられたように思います。人との繋がりについて考えさせられる、とても心温まるエッセイでした。

【小説部門】K様の失踪

 物々しい文語調の言い回しであるにも関わらず、物語は非常にシンプルで、無くなった靴下をただ探すだけ。なのに面白い。テンポ良く話が進み、さながらミステリーチックに靴下を探し続けて、辿り着いた真相はあまりにも残念かつ無念で、しっかりとオチもついています。ここまで人に読ませる作品に仕上がったのは偏に文章構成の巧さにあるのだと思います。発想と技術が組み合わさったことによる傑作に仕上がったのではないでしょうか。