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きょうのことば

きょうのことば - [2016年01月]

すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。

「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。」
アリストテレス(『形而上学』岩波文庫 21頁)

 アリストテレス(紀元前384~紀元前322)は古代ギリシアの哲学者で、自然学、倫理学、政治学、文学など、非常に幅広い分野で活躍したことから、「万学の祖」と呼ばれることもあります。その業績はヨーロッパやイスラム世界の学問を経由して、現代にまで影響を及ぼしています。

 標題のことばは、『形而上学』の第1巻第1章冒頭部に書かれています。この章でアリストテレスは、「知ること」や「知恵」とは何かという、彼が扱った広汎な学問の基礎となることがらについて考察しています。彼は、人間の知能は感覚から、記憶、経験知、技術知を得て、知恵(理論的な認識)に進むと考えています。そして、この章の終わりでは「知恵(ソフィア)と名づけられるものは第一の原因や原理を対象とするものである」と述べ、何かを「知る」という場合、その原因・原理を知っていることが、「知恵」の本質なのだと結論づけています。

 アリストテレスは、「知る」ことについて、さらにこう述べています。
  我々は、棟梁(とうりょう)をば、その仕事の一々に関しても手下の職人たちより遥かに尊重さるべき者であり、いっそう多く知っている者であり、
  したがっていっそう多く知恵ある者である、と考えもするのである。というのは、かれがそのする仕事全体の原因を知っているがゆえにである。

 ここで「棟梁」というのは、職人たちの上に立って、全体を指揮する人を指します。棟梁は、建物の構造を決めるためには、それが何のために使われるのかを知っていなければなりません。また、建物を作る際の手順・方法・材料を決めるには、力の伝わり方やものの形についての理論、素材のもつ性質といった原理の部分を知らなければ、適切な判断はできないでしょう。

 私たちは、目の前にある問題に対処することばかりに気をとられて、ともすると、それに対処するための表面的な方法論を求めてしまいがちです。しかし、棟梁が有するような知恵は、原因や原理まで突きつめた知によって、はじめて成り立つものです。真になにかを作る、あるいはなにごとかをなすには、そのような知恵が不可欠です。

 アリストテレスの標題のことばは、人間の生とは、「知る」ことと根源的に関わっていることを教えているように思われます。「知る」対象を表面的なものにとどまらせず、つきあたるさまざまな問題に対し、その原因や原理までをも解き明かしていくことが、知を豊かにすることであり、人間が真に「生きる」ことにつながっていくのではないでしょうか。

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