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今という時間

今という時間 - [257]

「学生のバイト」
浦山 あゆみ(うらやま あゆみ)

 いま担当している4年生のゼミ学生たちは、ほぼ全員が1年時から接する機会に恵まれた。彼(彼女)ら自身はあまり気づいていないだろうが、入学時のことを思えば、驚くほど成長を遂げた。
 授業の90分間がじっとしておられず、そわそわしていた新入生たち。この時期は、教師を真面目な教育番組の進行役としか見ておらず、どうやらチャンネルを変えられないのがもどかしいらしい。教師の側も、最も学生との距離を感じるのがこの頃である。
 それが4年生にもなると、いつの間にか大人の顔を垣間見せる青年へと変貌している。ようやく教師を一人の人間として受け入れてくれるようになるようだ。「この変化は何なのだろう?」と不思議に思い、何名かの学生に尋ねてみた。するとみな一様に口を揃えて「バイトで学んだんです」と言う。「最初はお金のためでした。でも、いろんな年齢の人と一緒に働いて、社会の礼儀や常識を教わりました」と、学生たちは嬉しそうに答える。
 私はそれが悲しい。様々な世代の人とあまり身近に接することもなく育った彼(彼女)ら。バイトとはいえ、社会の一端に触れたことで自らの成長を自覚し喜ぶ。しかし、二十歳前後の元気で自由な大学時代に、勉強できる幸せを噛み締めぬままバイトに明け暮れている。それによって得たものがあれば失っているものもあるとさえ気づかず…。
 だが、彼(彼女)らの嬉しそうに話す笑顔を見ていると、そんな冷水を浴びせかけるようなことはとても言えない。それがまた悲しい。

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